「森先生は先生になるの~!?」
「…そうなる、かな?」
「じゃあウチの学校きたらいいじゃん!」
「自分で決められないだろう?」
授業を終え、生徒に挨拶も終えると、孝明は生徒に囲まれていた。
他のクラスからも孝明目当てにやってくる生徒も多数いた。
「頑張って先生なってね!」
「ありがとう」
にこやかに声をかけられる生徒達に答える孝明は本当に真面目そうで誠実そうに見える。
「森先生」
千波が声をかけると孝明が生徒に囲まれた中からまっすぐ千波に視線を向けた。
「じゃあ、勉強頑張れよ?」
え~!と生徒から声が上がる。
「勉強できれば学校も将来も好きな事が選べる範囲が広がるからな。今苦しくても絶対後が楽になるぞ」
孝明が生徒の頭を撫でながら掻き分け千波の横に立った。
「…いい先生になれると思う」
小さく千波が呟くと孝明がくすりと笑った。
「ありがとうございます」
満足そうに見える。
迷っている、と始めは言っていたけれど決めたのだろうか?
千波も思わず表情が緩んだ。
学校での、人前での孝明は校長先生や他のベテランの先生の前でも物怖じもしないで常に手本であるかのような態度だ。
だから勿論覚えもいいし、評価も高い。
校長先生、教頭先生からも是非教師の道に、と勧められるのも頷ける。
反対に小出さんにはうやむやな言葉。
はっきり言って向いていない。
自分で分からないのだろうか?
それでも佐藤先生にも横柄な態度もなくなってたから大分楽になったと佐藤先生から千波は感謝された。
「やっと終わりましたね」
やれやれと佐藤先生は気が抜けたように言ったのに千波もそうですね、と頷いた。
「篠崎先生は若いのにきっちりしてらして、びしりとも言えるし、いやぁ助かりました」
「…そうですか?」
全然きっちりしてなんかいない。指導しなくてはいけない教生の孝明とあんなコトになってたのだから。
…口が裂けても言えない事だが。
来週からは通常に戻るんだ…。
ずっと目の前にいた孝明の存在がいなくなるのに心寂しく思えてしまう。
「やっと煩わしさから解放だ!篠崎先生飲みいきませんか?」
「いえ。今日はちょっと」
ミューと孝明が待っている。
即座に断ると佐藤先生が顔をにやにやとさせた。
「ああ、彼女待ってるんですか?そりゃ失礼しました」
「そんなんじゃ…!佐藤先生も奥さんが待っておられるでしょう!?」
「う~~~ん…ウチのこわいからなぁ~…鬼嫁ってヤツですよ!」
そこから今度は奥さんの愚痴が始まるのに千波は辟易する。
さっさとやる事終わらせて帰りたいのに…。
佐藤先生に適当に相槌を打っていると他の先生も話に入ってきて奥さんの愚痴合戦になっていた。
千波はそっとそこから後ずさり自分のすべきことに手をつけた。
雑事は山ほどある。
運動部の顧問もしていない千波はさらに雑事を任される事がおおい。年もまだ若いし、断るなんて事もなかなか出来ないのは仕方ない。
さっさと片付けていくに限る。
中総体や校外学習、テスト、行事も多い。
孝明のばかり考えている暇などないんだ。
そうは思っても、PCでキーボードを打ってても、プリントをコピーしてても浮かんでくるのだから。
「はぁ…」
重症化してる気がする。
もう来週からはいないのに。
「篠崎先生!」
大きな声で呼ばれて千波ははっとした。
「コピー終わってますよ?ぼうっとしているなんて珍しいですね?教育実習で疲れたのでは?今日は早く帰ってゆっくり休んで下さい。肩の荷がおりたでしょうから」
「…はい」
学年主任の先生に頭を下げて千波は頷いた。
最低限のやる事を済ませ、早めに帰る事にする。
ビール買っておきます、と言ってたから孝明がまた飯の用意をしてくれてるのだろうか…?
昨日も一昨日もそうだった。
「お先します」
「お疲れ様です」
千波は頭を下げながら職員室を後にした。
今週はいいけど、来週からはどうなるのだろう?
孝明は大学だろうし…。
………今日も泊まるのだろうか?
朝に目覚めた時に孝明の腕と顔があるんだ。
それが満足に思えるのだから…。
眠っている孝明が無意識に千波を抱えている事に。
…いや、千波だと思っていないのかもしれないが。
そして千波が目を覚ますとミューがご飯!と騒ぎ始め、孝明も起き出す。
…絶対変!
………なんで孝明は一緒にいるのだろう?
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