何度も何度も足りないと言われているように孝明が千波を貫いた。
本当に千波を欲しているみたいに。
それに千波は勘違いしてしまいそうだと思ってしまう。
まるで離れていた恋人が久しぶりに再開したらこんなになるのでは?というような乱れ方だったと思う。
…そんなの実際には千波は知らないけど。
「…千波さん…俺だけにしてください」
「え?何が?」
「セックス」
「…………」
汚れた身体を流し、だるくなった腰でベッドに横になった千波に孝明がそう言ってきたのに思わず孝明を睨んでしまう。
誰ともする予定なんか元からない。
そこにミューがジャンプしてからベッドをよじ登ってきた。
自分で登られるようにはなったけどまだ、綺麗にベッドの上までジャンプ、着地とまではいかなくて必死な顔をして上ってくるのに思わず笑みが零れる。
「がんばれ」
耳を後ろに倒して目を大きく開いて必死な顔。
可愛い。
猫なで声、なんてよくいったもので本当にこんなにミューが可愛いだなんて思ってもみなかった。
ベッドに登りきって今度は満足そうにすたすたと千波の横にやってきてくるりと丸まる。
「孝明がなんか言ってるんだけど?」
ミューに話しかけながら撫でてやると前足をふみふみしながら喉を馴らし始める。
「どういう意味だと思う?」
「どういうって、そのままですよ」
「全然そのままじゃないよな?まるで僕が誰でもいいみたいな言い方だ」
「そうじゃないです!」
「そうだろう?」
「違います」
はぁ、と孝明が溜息を吐き出し、千波を抱きしめながら横になった。
「どのあなたが本当なんですか?皮肉を返すのも、寂しくて泣きそうなのも…どれも千波さんですけど」
「そうだよ?全部僕だ。孝明だって同じだろう?学校での真面目で誠実そうな孝明とふざけた言い方をする孝明と」
「ふざけてなんかいませんけど?」
「そう?」
好きです?って疑問形つけてるのもふざけてないと?
「…千波さん、来週から俺は大学戻りますけど」
「………うん」
「千波さんの部屋に来ていいですか?」
「………ああ」
いいに決まってる。
「今まで実習の間はバイト休んでたんでよかったんですけど、バイトも入るからさすがに毎日は無理かと思いますが」
「…そう」
「ただバイトは連日でもないので。急に入る事もあるけど」
「…別にいいよ。僕は毎日ほとんど変わらないから。ちょっと帰りが遅いか早いか位だけだから」
孝明の都合がいい時に来ればいい。
「……ほんとつれない人ですね」
孝明が小さく呟いて千波にキスした。
「遅くてもいいから来て、と言ってくれれば来ますよ?」
「……別に来たくもないのに来る事はない」
千波はいつでもいいんだ。無理を言うつもりもない。
ミューも少しずつ大きくなってきたし、生活にも慣れたみたいで朝千波の出かける気配を悟り甘えるようになる事はあるけれど、悪さも何もしてはいないらしい。
「…大学が早く終わる時とかは来ますね」
「………」
別に早くなくたって、遅くだっていいのに。
ふいと千波は孝明に背を向け、ミューに手をかけながら布団を被った。
「寝る」
「……おやすみなさい」
孝明の声とキスの音が耳に響いた。
所詮、孝明にとっては千波はその程度なんだ。
今まで朝から晩まで長い時間…へたをすれば24時間だって一緒にいたのに、大学の戻れば来られなくなるという。
きっとその内段々と足は遠のいてそして来なくなるのかも…。
嫌だ…。
そう思ったとしたってそれは口に出来ない。
そんな事言われたって重いだけだろう。
それにみっともない。
初めてだから…。キスもセックスも、だからきっと余計に特別な気がするんだ。
孝明は自分でも認めたとおりに遊んでそれなりに経験しているだろうから、千波だけというわけでもないのだから、だからあっさりしているんだ。
千波も誰か別の人を知ったらそうなれるのだろうか?
でもいままで付き合った彼女としたい、とまで思った事がなかったし、男となんて考えられない。
孝明は別だけど…。
最初から人間的に合うなんて初めてだったんだ。
だから、千波にとって孝明だけがやっぱり特別、なんだ。
でも孝明は違う…。
軽い言葉と態度に千波がこんな事を思っているなんて孝明は知りもしないのだ。
テーマ : 自作BL小説
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