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2012.09.16(日)
「彼女にプレゼントですか?」
「そう」
彼女~~~!?
それに平然と答える怜に袖を引っ張って抗議する。
入ったのは宝飾の店でけっこうごつい指輪とか置いてあった。
ここもやっぱり店内はクリスマス仕様だ。
「ペアリング。ある?」
「ございます」
にっこりと店員が笑って次々と出してきた。
クリスマスだからさぞペアリングは売れるだろう、と思ったけど、そうじゃなくて!
「れ、怜さんっ」
声が店員に聞こえないように小さく小さく囁いた。
でも怜は無視して口端を上げている。
「指輪のサイズ…知らねぇな」
「お計りします、指はどちらにいたしますか?」
店員がにこやかに怜に聞いて来る。
「薬指で」
怜は自分の左手を出して計ってもらい、明羅も促され、恐る恐る指を出した。
絶対女性よりも指は太いだろう。でも店員は何も言わなかった。
「サイズが合うのは一つしかなかったのですが…?他の物でもサイズ直しできますが時間が…」
「それ、見せて」
こちらになりますと出されたものはごついけど野暮ったい感じではなくてちょっといいかも、と明羅もそれをじっと見た。
見たけど、値段が…。
ほいっと買う値段じゃない。
「ああ、これでいい。それと鎖も欲しい」
店員はすぐにそれに対応してくれる。
明羅は声を出さないようにして怜の袖を引っ張り首を小さく振った。
だが怜は笑ってそれを無視して会計を済ませ、袋を受け取った。
「お綺麗な方ですね。お似合いですよ。よかったですね」
にっこりと店員が明羅の方を見て言われれば明羅は顔が熱くなりながらも小さく頭を下げた。
店員なんだからお世辞なんだろうけれど、いたたまれない。
早く出ようと明羅は怜の袖を引っ張った。
怜はずっと小さく笑っていて肩を震わせている。
「そんなに気にしなくていいのに」
「気にするからっ」
男同士でばれたら誰だって引くに決まってる。
「デパ地下で今日の夕飯の分買ってあと帰り途中でどっか寄るか?」
明羅はこくこくと頷いた。
地下も皆クリスマス用でオードブルや鳥、ケーキが並んでいる。
「うわ…」
初めて見た。
へぇ、と明羅は物珍しそうに眺める。
家でもクリスマスといえばそれなりな感じの料理だったけど、基本一人が多かった。
なんといってもクリスマスは演奏会とかは多いのだ。仕方ない。
それが寂しいなんて特に思った事などないと思っていたけれど。
「何食いたい?」
「…鳥?」
「ま、オーソドックスにそうだな」
怜は笑って選びにかかる。
「今日は買って、手抜きで」
「全然、そんな…」
「クリスマスツリーも買うか?」
「……それはいいよ」
怜さんはきっと分かってるんだ。明羅が普通のクリスマスをした事がないのだと。
普通を知らなさ過ぎる、って怜さんが言っていた。教えてやるとも。
怜が選んでカゴの中に入れていく。
ケーキも小さいのを買って、会計を済ませて車に戻った。
車は駐車場を出て行くが道路はどこも混雑していてなかなか進まない。
それでも今日はゆったりとした時間で急ぐ必要もなかった。
「本当は夜のディナーでも一緒してイルミネーション見て、って感じなんだろうが、お前の身体がそれではひどいからな…。来年は前日は控えよう」
「べ、別に、大丈夫っ」
「…全然大丈夫じゃないだろ」
「だってっ…」
嬉しい。
普通のデートみたいにして、しかもクリスマスに。
そんな事考えてもみなかった事だ。
「ん~…どこかに一泊で出かけるとかもいいかな。あ、別に一泊じゃなくて連泊もいいか」
「それはだめ!ピアノ触れなくなるでしょ」
「…………2、3日位どってことないだろう?」
「だめ」
「………お前の方が考えが固いな」
「当然。本当に指動かなくなるから。俺ももうかなり動かないし」
「だから弾けって言ってるのに」
「俺はピアニストじゃないから別にいいの。怜さんはだめ」
「はい、そうですね。……明羅くんを興奮させる事の出来る指だから大事にしないと」
「れ、怜さんっ」
そう、だけど…。
本当の事だけどっ!
「午後は何する?だらだら?」
明羅は指輪が気になった。クリスマスプレゼント?そんな事思いつきもしなかった。
両親に小さい頃貰った事はあったけど、全然そんな事思いつきもしなかった。
クリスマスだって分かっていたのに。
でも昨日までは怜のコンサートで頭がいっぱいで。
どうしたらいいのだろう…?
怜の質問に答えられないまま明羅は俯いた。