「千波さん」
唇を離して少しぼうっとしてると孝明に名前を呼ばれた。
「え?何?」
手を引かれてついていけば千波の寝室でベッドに座らせられた。
「あ、の…?」
「我慢してた、って言ったでしょ」
「……でも」
「今日の夜バイト入ってるんです」
「…………」
千波はふいと孝明から顔を背けた。
「千波さん?」
「知らない!バイトなんて」
「………バイトはライブハウスで歌ってるのと家庭教師してるんですけど…」
歌ってるのは岳斗くんから聞いて知ってる。けれどどうしてそれを本人から聞かせられなかったのか。
「千波さん?何怒ってるんですか?」
「別に?……歌のバイトは岳斗くんから聞いたから知ってる」
「………………もしかして言ってなかったから怒ってるんですか?」
「別に怒ってない!孝明が言いたくなかったんだろ」
「そんなんじゃ…」
くすくすと孝明が笑い出した。
そして孝明の手がそっと千波の身体を横たえてくるのに緊張してくる。
「……俺の事なんて全然興味ないのかと思ってたから…これからはちゃんと言います。それでいいですか?遠慮もしません。今もセックスしていいんですよね?きっとしなかったらいらないんだ、とあなたは思ってしまうんだ?」
う…、と否定できなくて千波は言葉を飲んだ。
「そんな事は…」
「あるんでしょう?…ちょっと分かってきました。ねぇ千波さん、遅くなりますけど、バイト終わったら千波さんの部屋に帰ってきてもいいですか?」
「…いい、って言ってる」
帰ってきて…。
ただ来て、じゃなくて帰ってきて、と言った孝明の言葉にかっと頬が熱くなって緩んでしまう。
孝明が千波の眼鏡を取り、組み敷きながらじっと見つめていた。
「……千波さん。分かりづらいです。もっと出してください」
「?」
「今のは嬉しい…ですよね?何がですか?どこが嬉しいと思ったんですか?」
「べ、別に…」
「言って。千波さんが何も言ってくれないので千波さんがどう思ってるのか分からないんです。嬉しいというのは分かります。でもどこが?」
じろりと孝明に睨まれて千波は小さく囁いた。
「……ただ、来る、じゃなくて……帰ってきて、って言う…から」
はぁ、と孝明は千波の身体の上で溜息を吐き出すのにびくりと千波は身体を揺らした。
「だから言いたくなかったのに!」
「はい?なんですか?」
「ウザイだろ!こんなの!」
「教師がウザイ言っちゃダメでしょ」
「今は教師じゃない!」
茶化して笑う孝明に千波がかっとする。
「…ウザくないです。反対ですけど?そんな可愛い事言われると思ってませんでしたから」
「か…」
「今までももしかして色々心で可愛い事思ってたんですかね?……そういやキスも初めてって言ってましたもんね…」
「そこは忘れろ!」
「どうして?俺は嬉しいのに?今まで俺は初めてとかバージンとか拘った事なんかなかったですけど、千波さんに限っては例外です。前にも言ったでしょ?俺だけにしてくださいって。前もこれから先も俺だけに…」
「……他に誰も考えられないけど?……孝明が…僕が誰でもいいような言い方するから!」
「してません。………ああ、もう黙って…」
孝明が千波の服の下に手を滑り込ませてくる。
「あ、っ」
ざわわとそれだけで体中総毛立ってくる。
「気持ちイイんですよね?」
「……いちいち確かめるな!」
分かってるくせに!
いつも分かってるじゃないか。
「確かめたいんですよ…千波さんにイイ、って言って欲しいくて。意識飛ばしたときしか言ってくれないですから」
「…そんな、ことはない」
「ありますよ?いつも最初はやめろ、とやだ、ばっかりです」
そうかも、と思わず黙ってしまう。
「……おかしくなりそうなんだ…」
「……なっていいです。今日はいっぱい感じてください」
「………いつ、も…だよ…」
だからおかしくなりそうなのに!
また孝明が溜息を吐き出して千波の身体に覆いかぶさってくる。
「あなたは俺をさっさとイかせたいんですか?」
「は?」
「なんなんですか、ホントもう…余裕ないですからね。覚悟して下さい」
「いい」
千波だってずっと待っていたのだから。
さらにこうして好きが目に見えれば気持ちを抑えられるはずはない。
「…早く」
孝明の首に腕を回せば孝明のキスが振ってきた。
性急な手はさっさと千波の衣服を剥いで、自分のも脱いでいく。
キスは絶え間なく。
だって一週間長かったんだ。
寂しかったんだ。
その前までがほとんど一緒だったのに急に存在がなくなって。
孝明も一緒だった…?自分だけじゃなかった?
会いたい、と思ってくれていた?
……そうだといいのに……。
テーマ : 自作BL小説
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