「おはようございます」
いつも少し掠れた感じの孝明のいい声と一緒にざらりとしたミューに舐められた感覚を頬に感じた。
「ん…」
目を開けようとしたら唇に軽い優しいキス。
はっとして千波は目を覚ました。
「……夢、じゃない…?」
目の前にじっと千波を見つめる視線があったのにほっとしてうっすらと笑みが浮かんだ。
「………夢………見てたんですか?」
「…見てた」
何度も。
そして朝目を覚まして隣にミューしかいなかったのが寂しかった。
虚しかったんだ…。
それが今日はない。
しかも昨日は…。
自分が孝明を特別に、こんなにも思っていた、事が知られて…。
かっと千波は顔を赤くした。
なんか今までの中で一番恥ずかしい気がする。
わざわざ岳斗くんから孝明の高校生の時の声の入ったCDまで貰ってきて、それも知られたんだから。
「……何にそんなに照れてるんです?」
顔を赤くした千波に孝明は首を傾げた。
「照れ…っ……」
孝明はいつも平然としてるんだ。
だから千波は自分の事などたいして考えていないんだ、と思っていたのだが…。
でもやっぱりこうしてうろたえて動揺してるのは自分だけのように思えてしまう。
「千波さん」
孝明に視線を向ければ孝明が相好を崩していた。
…アレ?
なんでこんなに孝明の顔が蕩けそうに柔らかくなってる、んだ…?
「た…か、あき…」
「はい?…もっと呼んでください、千波さん」
「……さん、いらない…」
なんか…いかにも年が上って感じすぎる。
「…千波?」
「ぁっ!」
孝明が千波の耳元で名前を囁いたのにぞくりと身体が反応してしまった。
「や、やっぱダメだっ!」
「どうして?…感じすぎるからですか?…すぐ慣れますよ?…千波」
「や、や、…だ、め!」
名前を呼ばれるだけでぞくっとしてしまうなんて!
「じゃあエッチの時だけとか?」
「だめだ!」
「……恥ずかしいだけなんでしょう?慣れてください。ミュー、おいで…ご飯だ」
孝明がくすくす笑いながらベッドを降りるとミューもぽんとベッドから降りて孝明の後ろについていく。
降りるのはすっかりお手の物だ。成長が見えるのが嬉しい。
そして一人と一匹の後姿、コレを見るのも久しぶりだ。
孝明は上半身裸で下だけ穿いてるけど、均整のとれた身体だ。
肩幅もあるし、どこか華奢な千波と違う。
いや、でもそれでよかったのか?
千尋のようになってたらきっと孝明は昨夜千波にしてくれたようなことはしないだろうから。
でもなんとなく男として複雑な感じもするのだが…。
そう思いながら千波も起き上がると、またかっとして顔が赤くなっていく。
平べったい胸の周りに、そしてあちこちにキスマークがこれでもか、という位ついていた。
でもこれ位孝明が千波を欲したという証拠だ。
恥ずかしいは恥ずかしいが、嬉しい、と思って千波は自分の目で見える範囲にあるそれを数えるようにして指でなぞっていると視線を感じてはっと顔を上げればドアの所に凭れかかる様にして孝明が見ていた。
「な、な、なに?」
見られた!と千波は慌てて着替えをしようとすると孝明がすたすたを千波に近づき、後ろから腕を身体に回され、抱きしめてきた。
「千波…」
耳元で名前を呼ばれれば腰が砕けそうになってしまう。
そして項にキス。
「ここにはもうつけませんよ。佐藤先生に見られたら困るから」
「…あたり、まえ…だ」
「…でも見えないところに数え切れないほどつけてあげます…。あなたのそんな幸せそうな顔が見られるならね」
どんな顔をしていたのだろうか…?
自分じゃ分からないけれど。
「……ん…」
小さく千波が頷けば孝明の腕の力が強くなった。
「……千波…」
「ちょ、っ!孝明!?な、んかっ…後ろに当たってる…ん、だけ、ど!?」
千波の腰に熱いものをこすり付けてくるのに仰天する。
「きの…あんな…に…だした、……のに」
「仕方ないです。千波が可愛い事してるから」
耳にキスの音が響いて後ろで腰をやわやわと揺らし始めるのに慌てて千波は孝明の腕から逃れた。
何度も孝明に抱かれた後、孝明はバイトに行って、その後また帰ってきて幸せと思えるような一緒の時間を過ごせた。
…だけど、今はちょっと!
何度も何度も穿たれたところははっきり言ってちょっとばかりツライ。
「…今はしませんよ?俺はいつでもいいんですけどね」
「し、しない」
「分かってます。ちょっと腰が…でしょう?昨日何度もしちゃったから」
「しらないッ!」
さっさと着替えて千波はリビングの方に逃げた。
後ろでくすくすと孝明が余裕の笑いを漏らしているのがやっぱり少しばかり面白くない。
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