「これ!」
つい、と千波はずっと持っていた合鍵を孝明に向かって差し出すと孝明が声を上げた。
「…いらないな…ら」
「いります」
千波の言葉の途中で孝明が止めるようにして、そして大事そうに千波から鍵を受け取った。
「…毎日来てしまいますよ?」
「……いい」
狭いソファに並んで座るのがもう定位置になっていた。
やる事なすことが今更ながら何もかも照れくさいのはなんでだろうか?
…初めての恋人の存在にどうしても千波は落ち着かない。
隣の孝明の顔をまともに見られなくて俯いているか、ミューを見ているか、視線を泳がせているか、になってしまう。
「教職、取ります」
静かな声で孝明が言った言葉にはっとして千波は孝明を見た。
「…うん。合ってる、と思う」
「…ありがとうございます」
それ以上千波は何も言わなかった。
孝明も言わない。
穏やかな時間だ…。
先週までの気持ちと全然違う充足感に満ちた時間。
ミューがいて、孝明がいて。
千波が望んだ光景が今ちゃんとここにある。
千波は噛み締めて顔を俯けた。
それから本当に孝明は自分のアパートには荷物や必要な物を取りに行く位でほとんど千波の部屋で過ごすようになっていた。
バイトがある時でも、終わったら千波の所に帰ってくる。
自分にそんな存在が出来るなんて思ってもいなかった。
今までどうしても人に対していらぬところを見てしまうと千波の中でその人はソコまでの人、と分類されてしまって、仲良くなろうとか、そんな気なんてさらさらなくなり、誰に対しても上辺だけの付き合いだった。
だから友人といっても部屋にあげた事も誰もなかった。
自分の空間を邪魔されるのを極端に嫌っていたのだが…。
孝明に対しては本当にそれが少しもないのが不思議だった。
むしろ千波の方が申し訳ない感じになっている。
どうしたって学生の孝明の方が帰ってくる時間も早いので、千波が帰れば飯の支度もしてくれているし、ミューの世話もすっかり任せきりのようになっていた。
地元も一緒で地元の話でも通じるのがおかしくて。
千尋が親よりも懐いていた叔父の店でバンドの練習をしていたとか聞くとなんとなく嬉しく思えてくる。
人の縁ってどこで繋がってるか分からない。
まさか地元から離れたこんな所でなんで千尋の同級生とこんな事になっているのか。
しかも最初は全然それに気付きもしてなかったのに。
思わずくすっと笑いが漏れてしまった。
「篠崎先生はここ最近充実した顔してらっしゃいますねぇ?」
佐藤先生が千波の満足そうな顔を目敏く感知したらしい。
「いえ、そんなでも…」
「いやいや、ご結婚でも考えてるのかな?」
「あ!いえ!本当にそんな事はないんです!」
出来るはずがない!
「変な事言わないで下さい!」
「なんだ…そうなんですか?」
「篠崎先生」
傍に生徒が立っていたのに佐藤先生が慌てて自分の席に戻って行った。
いつも聞きに来る生徒だ。
「また問題で分からない所?」
「…はい。……ここなんですけど」
「ああ、これはちょっと捻ってある問題だけど、すぐに分かるよ?」
テストの点数もよくて勉強が出来る子なのにさらに意欲的に聞いてくる位数学は好きなのだろう。
「…分かりました。ありがとうございます」
「どういたしまして」
「あの…」
「ん?」
なにか言いたそうにしている生徒を促した。
「最近ずっと職員室ばかりで…数学研究室、は行かないんですか…?」
「最近はちょっと雑事が多くてね。あっちだと都合悪いから」
孝明は心配しすぎだ、と思うけれど、一応孝明に言われていた通りにずっと職員室に詰めているようにしていた。
「…そう、ですか…」
「…背、高くなった?」
中学生のくせにでかいなぁ、と千波は生徒を見上げた。
制服、きっと大きめのを買ったはずだろうに小さく窮屈そうだ。成長期なんだから当然だろうけれど。
「はい!あの、分かりますか?ここ最近でまた伸びたみたいで!」
ぱっと顔に笑顔が零れるのに、身長が大きくなってもまだ子供だなぁぁ、と千波はほのぼのしてきた。
「ちゃんとバランスよく栄養とらないと骨がもろくなって怪我にも繋がるからきちんと好き嫌いなく食べろよ?」
「はい!好き嫌いないので大丈夫です」
「部活もがんばって」
「ありがとうございます」
ぽんと背中を叩いてやるとじゃ、失礼します、と嬉々とした声をあげて職員室を出て行った。
「菅野くん、篠崎先生になついてますねぇ」
「そうですか?数学好きみたいでよく聞きにきますけど」
学校でも勉強よし、部活でも活躍の有名な子で先生達にもうけがいい子で有名な子だった。
そんな子がまさかな?
孝明の深読みに千波が苦笑を漏らした。
------------------
続きに拍手コメお返事です^^
S様
安静にしてたよね?
まさか鼻栓してジョッキ持ってないよね?(--;)
どうにも止まらない~(笑)
ミューちゃん公開したいんだけど?(^m^)
だめ?(大笑)
そうね~鍵っ子でしたね~!^^;
鍵っ子じゃなくていいのに~
早く風邪よくなりますように~!
ありがとうございます~^^
KRB様
やっとですね~^^;
やる事やってたのに長い!…スンマセン!(笑)
やっとあまあまイチャコラと思いきや~…
スンマセン…先に謝っときます~(笑)
ありがとうございます~^^
C-様
お久しぶりです^^;
猫飼ってらっしゃるんですね^^
私もウチの子の小さい頃思い出しながら書いてました^^
岳斗は可愛いまんまです~(^m^)
どこでも癒しな存在です^^;
ありがとうございます~^^
MMZ様
ようやくでした^^;
孝明、焦らしてましたね~…焦らしのつもりはなかった
(はず…多分 笑)
ミューちゃん可愛いありがとうございます~^^
ミューちゃんの独り言ですか~?(笑)
多分、こう思ってるんじゃないかな~と
思うような事だと思います~(笑)
ミューのおかげでしょ?誉めて?って感じかな?(笑)
ありがとうございます~^^
kin様
甘いシーン…(^m^)フフフ
読み直しありがとうございます~/////
ぽこぽこ歩くのは仔猫の特徴ですからね~^^
でも大人になってもご機嫌な時はたまにぽこぽこと
跳ねるように走ってくる時ありますけどね~(^m^)
スピンオフ、気に入っていただけて嬉しいです~♪
皆が幸せ、私も好きなので、そうなっちゃいます~(笑)
どこまでいってもあまあまイチャコラ嫁命CPになってしまします(^m^)
ありがとうございます~^^
テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学