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波が猛る。 3

 「ちょっと明日から三日ばかりは自分のアパートのほうに帰ります」
 「え?」
 仕事を終えて自分の部屋に帰り、一緒に孝明が用意してくれた夕食を食べながら孝明に告げられた。

 なんで?
 そう聞いてもいいのだろうか…?
 嫌になったのだろうか?
 「ちょっと千波には内緒。でも三日だけです。土曜日からはまたここに帰ってきますから」
 「……そう」
 何でもないように、と顔に表情が出ないように気をつける。
 帰ってくる、と言うのだから。三日だけだ、と言うのだから。

 「……寂しい?」
 孝明が手を伸ばして千波の頬に触れた。
 「別に?子供じゃあるまいし」
 つい張らなくていい意地を張ってしまう。
 「寂しい、とは言ってもらえないんですね…」
 孝明が苦笑していた。
 「………じゃあなにか?俺が寂しいと言えばその三日もなくなるのか?」
 それならば言ってやる!

 「いえ、三日でも正直キツイ感じです」
 ほらみろ!言っても無駄なんだろうが!!
 ついと千波が孝明を睨むと孝明はまだ苦笑していた。
 「スミマセン」
 「…別に謝る必要ないだろう」
 「……今日は三日分千波の中に出していかないと」
 とんでもない事を言い出す孝明に千波はぶわっと身体が熱くなった。
 「な、なに言って…」

 「だって忘れられたら困りますから」
 「忘れるわけないだろッ」
 「電話とメールはしますね」
 三日も何そんなにすることあるのだろう?
 内緒って…。
 面白くない。
 「三日でキツイなら今日も帰れば?」
 心にもない事をつい言ってしまう。
 「今日は意地でも帰りません。千波が俺なんかいらない、って言うなら泣き泣き帰りますけど?」

 …言うはずないだろう。
 それに言ったにしても泣き泣き帰るなんて絶対嘘だ。
 思わず千波が黙ってしまうと孝明は千波の身体を引き寄せて耳の後ろにキスする。
 「いらない?」
 「……くない」
 むっとしたままで千波が答えれば孝明が満足そうに口端で笑い、そして唇を重ねたのに千波は孝明の胸辺りの服を掴んだ。

 三日も、なんてなにそんな大事な用があるんだよ?
 でも内緒って言った。
 もう一緒にいるのが当たり前になっているのに寂しくないはずないだろう。
 バカ。
 ぐいと孝明の服を引っ張ってさらに千波から唇を押し付けると孝明の腕が千波の身体をぎっちりと抱きしめた。 
 「…三日だけいい子で辛抱しててください」
 「子供じゃないって言ってるだろ!ミューおいで」
 ミューに声をかけるとゆったりと歩きながらなぁに~?と言わんばかりに千波の差し出す手に向かってくる。
 手に頭をこすりつけ満足そうなミューに話しかけた。
 「三日孝明いないんだって!…僕とミュー捨てられるんだ…」
 「あのね!誰が捨てるって言ってるんですか。むしろ一緒にいるために、ですから」
 「?」
 一緒にいるために?

 「とにかく!大人しくいい子で千波もミューも待っててください」
 「…子供じゃないんだからそんな言い方ないだろ」
 「あなたが子供みたいな事言ってるんです」
 「………分かった。言わない」
 「あ、違いますよ?言っていいですから!」
 「言いません!もう!はい!」
 コレに関してもう何も言わない!

 「…ホント子供みたいなんだから…意固地になって…寂しいくせに」
 千波が寂しいって孝明は分かってるくせに三日も来ないって言うんだから、もういい。
 「待ってて下さい」
 孝明がそう言うなら待つしかないんだから仕方ないだろう。
 何言われたってされたって孝明がいればいいのに。
 千波の方が我儘なような言い方していたって千波の方が常に受身で、孝明の方がしたいように行動するんだ。
 千波は嫌われたくないからそれを受け入れてしまう。

 今だって本当は問いただしたいのに!
 三日も何するんだ?って!
 どこかに行くじゃなくて自分のアパートに帰るって言ったんだ。
 なんで?
 何か用事あっても、バイトで遅くなっても今までは毎日千波の部屋に帰ってきたのに。
 なにか不都合?
 でも一緒にいるためって言った。
 訳が分からない。
 だから本当は聞きたいのに。
 喉元まで出てくる言葉を千波は飲み込み、恨めしそうに孝明を睨むと孝明は苦笑する。

 「三日だけ。あとは千波から離れませんから。信じられない?」
 そうじゃない。
 孝明の聞き方はずるい!…千波は小さく頭を横に振った。
 
 

テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学

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