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熱視線 無伴奏~ア・カペラ~3

 「どうした?」
 「え?あ、ううん…」
 大人しくなった明羅に怜が怪訝な表情を浮べた。
 「…身体ひどいか?帰るか?」
 帰っても怜が多分お昼を用意してくれるし、どこかで食べるのも怜が会計する。
 どっちも怜の迷惑にしかならないと思えば明羅には答えられなくて。
 おまけにクリスマスなんて思いもよらなかったし、今更プレゼント用意なんて出来ないし。
 「明羅?」
 「……帰る」
 ぷいと明羅は外を見た。
 怜さんはずるい。
 
 
 怜は黙って家に車を向けた。
 「明羅?」
 車から降りて顔を俯けたまま荷物を持った怜の後ろについて家に入った。
 「……面白くなかったか?」
 「違うっ」
 泣けてきそうになる。
 「横になってるか?」
 身体がよほどひどいと思ったのだろうか?
 そうじゃないのに。
 「……ソファでいい」
 「じゃ、座ってろ。部屋暖まるまでコートは着とけ」
 身体が重いのは本当だから頷いてソファに小さくなって座って、荷物を片付ける怜を待った。
 リビングに戻ってきた怜は紙袋を持っていて、それをごそごそ開ける。
 「手」
 怜は明羅の左手をとって指輪を嵌めた。
 「普段はこれにかけとけ」
 チェーンは手に握らされた。
 「それとコレ。いつも俺いたしすっかり忘れてたが、お前にやってなかったから」
 出してきたのは鍵二つ。
 「門扉の鍵と家の鍵」
 だから、どうして…。
 我慢してたのに涙が溢れてきてぽたぽたと垂れてきた。
 「明羅!?」
 明羅は怜を押し倒すように抱きついた。予期してなかったのか怜がソファに倒れこんで明羅は怜の上に被さった。
 「俺…何もない、…のに」
 「…は?何が?」
 怜がきょとんとして明羅を見上げてた。
 明羅の涙が怜に落ちて、怜はくすっと笑いながら手で明羅の涙を拭った。
 「お前泣き虫だな」
 「そんな事ない!」
 「だって昨日も泣いてただろ」
 「怜さんが悪い」
 「俺のせいか?」
 「そう!」
 う~と声をあげて泣きながら怜の胸に顔を伏せた。
 怜は笑いながら明羅の背を撫でる。
 しばらく怜は何も言わないで明羅の背を撫でてくれてそれがまたさらに涙を止めてくれなくて困った。
 

 「……嫌じゃなかったのか?」
 「ない」
 「なんだ。女扱いされてお前が嫌だったんじゃないかと思って俺ははらはらしたのに」
 怜が苦笑を漏らした。
 明羅は涙は止まったけどまだ怜の上で、派手に泣いたから恥かしくて顔は上げられない。
 「身体ひどくなけりゃなぁ…。失敗だった。折角のクリスマスが」
 怜が明羅の頭にキスした。
 「顔上げろ」
 「やだ」
 怜がまた苦笑する。
 「指輪は?嫌か?」
 「……嬉しい」
 「それはよかった。いらないと言われたらどうしようかと思った。クリスマスプレゼント兼ねて、だな」
 兼ねて?
 明羅はそろそろと顔を上げた。
 「ここの指の意味は?俺の指にはお前がつけて?」
 怜が明羅の目の前に左手を広げた。
 「そ、……」
 「明羅に聞きもしないで勝手に決めた事だけど。お前がよければ」
 「いい、に決まってるっ」
 明羅は身体を起こしてケースから指輪を取り出して怜の指につけた。
 「俺も指輪は鍵盤にぶつかるから首に下げる事になるけどな」
 そっと明羅は自分の左手と怜の手を合わせた。
 大きい手。
 ぐっと怜が明羅の手を握り締めて引き寄せてキスした。
 「…焦った。お前が嫌だったのかと思って」
 「嫌なわけないでしょ」
 「だって話しなくなるし。顔は背けるし」
 「……だって……。俺、クリスマスなんて…忘れてたし…」
 「俺だって昨日の夜だ。気付いたのは」
 「でも、怜さんはこうして…」
 明羅は何も出来ないのに。
 「クリスマスデート。ちょっとだけだけど。来年はちゃんと力いれよう」
 「…別にいい」
 「なんだよ。張り合いないな」
 「…だって…。俺、何したらいいか分からない」
 「別に何もしなくていいだろ。俺が勝手にするだけだ」
 「やだよ…。俺だって…なんかしたい…。今日だって、俺、何もない…。いつも…いつも…怜さんから貰ってばっかりだから…」
 「……ばかだな」
 怜が明羅を笑いながら抱きしめた。
 
 

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