「千波…」
「ん…?」
声とキスが降ってきた。
「まだ寝たらない?ミューはもう朝飯食いましたよ?」
「…え?」
ぱっと千波は目を覚ました。
孝明は上半身裸で髪が濡れている。どうやらシャワーしたらしい。
「…起きる」
「…千波も寝れてなかったんですね…」
ぐっすりと眠っていたのに孝明が苦笑した。
「俺のせいですね…すみません」
軽くキス。
孝明が隣にいたのに安心して眠れたらしいのに千波が笑みを漏らした。
いなかった二日間は夜中に目を覚まして隣を確かめというのが何度もあったのにそんな事もなく爆睡していたらしい。
すっきりと目覚め気持ちも気分も晴れやかになって起き出し、そして少しすると千波の携帯がなった。
「岳斗くんだ。……もしもし?…ああ、ウチ?いるよ?……え!?あ…」
ピンポンとチャイムが部屋に響いたのに孝明と顔を合わせる。
「今来るって」
「…もう来てるだろ」
玄関を開けると岳斗くんと千尋が立っていた。
「おはようございます!ミューちゃん見に来ちゃった……って、タカ先輩?」
きょろんと岳斗くんが目を丸めていた。
「…だからやめとけ、って言ったのに…」
千尋が小さく呟いてはぁ、と溜息を吐き出していた。
広くないリビングの小さなテーブルに4人。
「ミューちゃん!おいで~」
大きくなってる!と岳斗くんは満面の笑みだ。
「千波さんとタカ先輩仲いいんだねぇ」
にこにこと無邪気な岳斗くんに千波は複雑になり、孝明を見れば苦笑、千尋を見ればまた溜息だ。
「岳斗、ちげぇだろ」
「違う?」
「ホントお前…」
くっくっと千尋が笑っていた。
「…引越しは?」
「終了」
千尋が孝明に向かって聞いていた。
…千尋は知ってたんだ?
面白くなくて千波は思わずむっとする。
なんで千波は昨日の夜知ったばっかなのに千尋は知っているんだ?
「え?タカ先輩引っ越したの?どこに?」
千尋と孝明が隣の方を指差す。
「?」
「…隣の部屋」
千波が岳斗くんに説明した。
「お隣さんなの?へぇ……え…?……アレ…?ち、千尋先輩…?」
「うん?」
「あ、あの…なんで…お隣なのに…タカ先輩は…千波さんの部屋に…半裸で、いる、のかなぁ…?…なんて……」
あはは、と岳斗くんが渇いた笑を浮べている。
「そういう事なんだろ」
「ぁ……」
岳斗くんがぱぁっと顔を赤くしていく。
…可愛い。
「あ!そっか!だからCD!」
ぱっと千波の顔を見て岳斗くんが頷いた。
「CD?」
「あっ!」
千尋が眉を顰めると岳斗くんが慌てている。
「な、な、なんでもないよ?」
「千波さんが岳斗からLinxのCDもらってきたんだ」
「ちょ!タカ先輩!」
「……岳斗?」
千尋の声が低くなって岳斗くんをじろりと睨んでいた。
「だって!千波さんが欲しいって言うから!千尋先輩のお兄さんだしいっかなって!でも千尋先輩のは入れてないよ!Linxのだけ!」
「……よくあんなのとっておいたな…」
孝明が千尋を見て苦笑していた。
「当然だ」
そして千尋が薄く笑っていたのに千波が羨ましく思う。
友人として同じ時間を共有してきたのが見えた。
「アレって千尋が曲作ってるのか?」
「そう」
千波が聞けば千尋が頷く。なんで同じ兄弟でこんなにも違うのか本当に不思議で仕方ない。
「ふぅん…。アレいいな。バラードの曲」
千波がそう漏らすと孝明は腹を抱えて大きな声をあげて笑い出し、千尋は頭を抱えて、岳斗くんは真っ赤な顔になった。
「?」
なんだ?と千波が首を捻った。
「………岳斗、覚悟しとけよ?」
「や、…あ、の……ゴメンナサイ~…」
「今更あれでこんな羞恥を味わうとは思ってもなかった」
はぁ、と千尋が溜息。
「?」
「何を今更!お前の曲はどれも恥ずかしいだろうが!昔も今もかわんねぇだろ?俺達は丸分かりだ。ああ、岳斗と喧嘩したんだ、とか、岳斗が忙しくて構ってくれないとか、はいはい、勝手にやってろって感じだよ!千波さん、知ってる?バラードの歌詞作るのは千尋なの。歌詞に出てくるあいつ、とかキミとかお前とか、全部岳斗の事だから!」
「孝明」
千尋の制止する声。
「それ以上余計な事話すならお前の過去全部話すぞ?」
千尋がにっと笑って孝明を見ると、孝明がぴたっと笑いを止めて口を噤んで大人しくなった。
……孝明は悪さも千尋と一緒にしていたらしい。
テーマ : 自作BL小説
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