3 駿也(SYUNYA) なんでよりによって学校の奴のお姉さんなんだよ…。
五十嵐 駿也は婚約式の間ずっと顔を俯けていた。
しかも一条会長の生徒会の奴…。
これでまた帰ったら色々言われるんだろう。
くっと駿也は顔を俯けたまま唇を噛んだ。
ずっと六平 泰明が駿也を見ているのは視線で分かっていた。
それでも六平でよかった、とも思う。
六平は学校での駿也の事をこの場では一言も話す事もなかった。
学校での自分の事など生徒なら誰でも知っているだろうに、何も…。
六平の事は顔は勿論ずっと秀邦にいるので見知っているが、生徒会の会計という事くらいしか駿也は知らない。
学校でもお喋り好きな奴でない事を願うだけだ。
…いや、どうせ一条の関係者にはいずれ分かってしまうことだろうけれど。
「駿也、泰明くんとは仲はよくないのか?」
「…あまり」
家に帰ってきての夕食の席でも駿也はいつも小さくなって座って、もそもそとただ与えられた食事を口に運ぶだけだ。
「ほんと使えない奴」
兄の言葉。
「仕方ないわね」
義母の蔑んだ視線。
「……すみません」
駿也はただ小さくなるだけだ。
「これを機会に泰明くんに近づきなさい。そうすれば和臣くんの目に止まるかもしれない」
…そんな事あるはずない、と駿也は思うけれどはい、とただうな垂れて返事をした。
「…ご馳走様でした」
食べ終わると駿也はさっと席を立って自分の与えられた部屋へと戻った。
キラキラしい、いや、ギラギラした成金趣味の家だ、と駿也は舌打ちしたくなる。
金だ、家柄だ、と嫌になってくる。
でもそんな家に厄介になっている自分。
父親が秘書に手を出して生まれてしまった自分。
自分なんか生まれてこなければよかったのに…。
レイプ状態だったらしいのに、駿也はその母親の顔も知らない。
それでも駿也を認めた父親がいたから路頭に迷う事もなかったのだが…。
感謝すべきなのか、そうでないのか…。
早くこの家を出たい。
けれどそうもいかないかもしれない。
秀邦なんかに通わされ、金をかけられた身ではそのかかった費用分を返せと言われそうだ。…いや、言われる。そうしたらずっとこのまま…?
怖気が走る。
そう思ってからくっと駿也は自嘲の笑みを浮べた。
…そんなの今更か。
小学校から秀邦に入れられて、きっとそれは外聞の為だけだと駿也は思うけれど、家でぽつんと一人だったのが、秀邦に入ってからちやほやされていい気になっていた。
馬鹿だった自分。
同級生にも上級生にも可愛いと誉められてちょっとは浮かれていた。
それがまさか…。
中学3年になったばかりの頃、高校に上がったサッカー部の奴らに呼び出されてそのまま部室でヤられた。
どうせ自分みたいなのは所詮何処にいったってまともになんか扱われることなどないのだろう。
欲望のはけ口にされ、それが1年位続いた。
そして高校に上がってくれば外部から入学した三浦 翔太って奴が駿也の代わりに一番に摩り替わっていた。
そして学年一カッコイイと言われる柏木 敦とつるんで、しかも一条会長の特別らしい。
どこにいたってないがしろにされる自分。
そんなのに今更傷つくわけでもないけれど。
…もうどうでもいい。
最初は三浦に、そんな外部組のくせにと苛立って、付き合ってると噂の柏木を盗ってやろうと思ったんだけど…、三浦とつきあってたというのはどうも違ったらしい。
現れたのは副会長だった。
なんだよそれ…。
なんて自分は滑稽なんだろ。
どこにいったって自分はピエロだ。
そして何をしても中途半端。
そもそも自分の生まれからして中途半端なんだから仕方ないか…。
一人、自分の部屋で横になって苦笑が漏れる。
部屋で一人、誰にも邪魔されないこの時が一番幸せかもしれない。
何をしたって上手くいかない。
どれもこれも。
こんな自分なんて大嫌いだ。
どうにかして一条会長と仲良くなれ、それが秀邦にいる間に駿也に架せられた使命。
でも会長なんか駿也を歯牙にもかけない。
当たり前だ。こんな自分なんか。
あの会長が自分なんかを傍に置くわけないだろう。
そもそも五十嵐の、父の会社だって、父だって一条に重要視なんかされていない。
それを駿也におしつけてくるんだ。
駿也は横になったベッドで目を覆った。
涙なんか出ないけれど…。
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学