6 泰明(TAIMEI) 泰明はリビングのソファに横になって面白くもないテレビを見ていた。
「休みの日にごろごろって!デートとか友達と遊びいくとかないの!?」
姉の由梨は出かけるのか幾分めかしこんでる。
「ないね。秀邦だぜ?彼女なんてできるわけないでしょ。ダチとも約束はねぇな」
彼女?秀邦なら彼氏だろうな…。とはまさか言えない。
「つまんない高校生ね!」
お前に言われたくねぇ、と由梨を睨む。テメーだって高校の頃遊びになんか行った事なかったくせに。
「あ、もしもし裕也さん?」
声のトーンが変わってかかってきた携帯に出ているのにさすが女は違う、と今までとは打って変わった言葉遣いと声に呆れた。
「ええ…。…ウチの弟もごろごろして…え?…あ、聞いてみます。泰明、あなた裕也さんの弟の駿也クンとどっか遊び行ったら?行くなら裕也さん駿也クン連れてくるって」
はぁん…。
泰明は思わずくすっと笑った。
「別にいいけど?どうせ暇だし」
「もしもし~?泰明OKですって!」
別にそこまで歓迎しているわけではないが、まぁ、いいか。
あの五十嵐の学校でのつんとした態度と家の者の前の態度とどちらが本当なのだろうか?ちょっと興味を引かれたというのが頷いた理由なのだが。
それが分かれば特に用はない…けど、まぁいいか。
由梨の結婚する相手、五十嵐の義兄の思惑が別な所にあるのは見え見えだ。分かり易すぎだろう、と思ってしまう。
あんまり頭よくねぇなぁ…と泰明でさえ思ってしまった。こういう所が会長のあれでいいのか?って言葉に繋がるのだろう。
五十嵐ねぇ…。
廊下ですれ違うつんとした姿しか浮かばない。
さてどんなヤツなんだろう?
あまり泰明は何事にも関心は無いほうだけど五十嵐の事はちょっと楽しみに思った。
「こんにちは」
「やぁ泰明くん。うちの駿也をどこか遊びに連れて行ってやって?土日ほとんど出かけないから」
「…そうなんですか?」
にこやかな裕也さんの影に小さく五十嵐がいた。
裕也さんは背はそんな大きいというほどでもないけどほどほどで体格もがっしりしてるのに、五十嵐は華奢で小さい。
「じゃ、裕也さん行きましょう!」
由梨は嬉々として裕也さんの腕を取り、車で出かけるのを冷めた目で泰明は見送った。
さて。
「五十嵐?どこか行きたいところは…?」
「………別にない」
小さくぽそりと五十嵐が呟くのに泰明は肩を竦めた。
学校でも笑ってる所なんか見た事なかったが、もう少し愛想よくしたっていいだろうに。
「普段出かけないって?」
五十嵐は顔も上げない、視線も合わせないままこくりと頷いた。
学校での態度も家での態度も思い出せばなるほどとも納得してしまう。
去年まで取り巻きはいただろうが友達ではないだろうし、今年に入ってからは誰かといるのも見た事がない。
…コイツ、もしかして誰かと遊び行くとか初めてとか?
なんとなく不憫な気持ちが浮かんだ。
小学校から見てはいるので話した事はなくとも何となくは見えるものだ。
どこ、ねぇ…。
ううん、と泰明が考える。
「……水族館でも行く?」
「…………任せる」
コイツ、父親と兄貴から仲良くなれ、って言われてるんじゃないのか?
愛想のない五十嵐の顔を覗きこんだ。
「な、何?」
「…いや?電車でもいいのか?」
「………その方がいい」
そんなので行けるか、とでも言うのかと思ったらそうじゃないらしい。
高飛車なイメージがあったがそうじゃないのか?
無言で泰明が歩き出すとその後ろを五十嵐が黙ってついてくる。
…なんか引率の先生みたいな気分になってきた。
五十嵐は本当に出かけた事がないのか顔を俯けながらも頭をきょろきょろと動かしたりしてどこか落ち着きがない様子に泰明は笑ってしまいそうになる。
「水族館行ったのは?」
「……小学校の校外学習以来…」
「まぁ、そんなもんか。俺だってねぇな…」
質問すれば素直に返事は返してくるけど五十嵐は一向に顔を上げる気配がない。
まただんまりのまま電車の駅まで着くと切符を買って電車に乗り込んだ。
日曜の昼間なのに以外に混んでいる。
「五十嵐」
はぐれないようにと五十嵐の腕を取ってドアの脇に立たせ泰明はその後ろに立った。
顔を俯けている五十嵐の首のあいたTシャツからのびる細い項が見えた。
肌の色が白い。出かけないからだろうか…?
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学