7 駿也(SYUNYA) 電車は以外に混んでいて六平に駿也の腕を取られ、ドアの横に立たせられると六平が駿也の後ろに立った。
駿也よりも背が高い六平がじっと駿也を見ているのは背中に視線を感じて分かっていた。
六平はどう思っているのだろうか…?
学校での今までの自分は話した事はなくとも知っているはず。でも六平は余計な事は何も言わないでただずっと傍にいるだけだった。
そして父親からも義兄からも六平と仲良くと言われているけれど、どうしたらいいんだろう?
「五十嵐、降りるぞ」
静かな六平の声が耳元近くに聞こえて駿也はこくりと頷いた。
誰かと出かけるなんて初めてでどうしていいか全然分からない。
小学校の頃から普通の友達なんていなかったし家族で出かけるなんて事もなかったから。
それを別に何とも思った事はなかったけれど、普通ってどういう話をしてるのだろう?
クラスの奴らの会話を思い出せばどこの家がどうの、とか、テレビがどうとか、駿也には興味ないことばかりしか思い出せない。
電車のドアが開いて六平がそっと駿也の背中を押してきたのでそのまま電車から降りる。
人の波に押されながら六平について歩いた。背が違うので足の長さも違うのか歩くスピードにちょこちょこ早歩きしないとついていけなくなる。
「五十嵐」
呼ばれてはっとして顔を思わず上げた。
「お前小さくて後ろ歩かれるとちゃんといるか分かりづらい。横歩け」
腕を六平についと引っ張られて横に立たされた。
横に並ぶと六平は駿也に合わせてくれているのか早歩きしなくてもよくなった。
六平は何も言わないけれど気遣ってくれているらしい。それも去年駿也に群がっていた奴らみたいなあからさまな媚みたいな所なんて一つもなくてやっぱり六平が何を思って自分と一緒にいるのか分からない。
同じようなTシャツにジーンズなのに背が高くなくて細い駿也と結構身長があって何気にがっしりしている六平とではなんとなくコンプレックスが刺激されてしまう。
秀邦に通っていた義兄は駿也が秀邦の悪習の目で見られているだろう事は分かっているらしい。
どうせなら大物を引っ掛けろとまで言われた事があったのを思い出した。
六平はずっと秀邦だし駿也の噂とかだってきっと知っているだろうに、でもそれに嫌悪感も見せないし一切表情が見えない。
「五十嵐、こっちだ」
考え事をしていたら六平にまた腕を引っ張られた。
「…ほっせぇ腕…」
ぼそりと呟かれたのに駿也は顔を俯けた。
そんなの知ってる。
「ちょっとここで待ってろ」
顔を俯けたまま言われた通りにただ立って待っているとすぐに六平が戻ってきた。
「ほら」
「…え?あ……」
渡れた入場券に駿也は慌てた。
「自分の分払う!」
「今日はいいよ。この次な」
…この次?この次もあるって事?
思わず駿也は顔を上げて六平を見た。
…コイツってこういう事に慣れてる…?
なんか電車でも、ただ歩くでも六平に気遣われてる感じに駿也はどうしていいか分からなくなった。
今まで押し付けられた事はあってもこんな風に自然に気遣われた事なんてない。
こんな時どうしたらいいんだ?
悩んでいたら行くぞ、と六平にまた腕を取られたので結局何も言えないまま水族館の中に入った。
うわ……。
思わず目の前に広がった青い海の水槽のトンネルに立ち止まってぼうっと眺めてしまった。
水族館なんて小学校以来だけれど…。
いいかも…。
ゆらゆらと優雅に泳ぐエイの姿に思わず水槽にへばりついて眺めた。
空を飛んでいるみたいだ…。
小さい魚の群れがきらきらと光っている。
青い水の光りは演出なんだろうけれど、まるで海の底に自分もいるようだ。
その目の前を大きなサメが横切った。
「う、わ…ねぇ、今のサメ、だよね?」
「だろ」
隣に立っている六平の服を引っ張って聞いてみれば肯定の返事が返ってきた。
「ちいさい魚の群れはなんだろ…」
「イワシだろ」
「…そうなの…?」
へぇ、そうなんだ…。
綺麗だ…。
どれ位そこにへばりついていたのか駿也がはっとして隣に立つ六平に気づいたのは結構な時間が経ってたと思う。
しかも六平のTシャツをずっと掴みっぱなしだった。
あとどうすればいいのか、と思えば六平が行くぞ、と言わんばかりに顎をしゃくって歩きだしたので駿也は手を六平のTシャツからそっと離して後ろをついていった。
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拍手コメントお返事たまりすぎたので(スミマセン 汗)
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