2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

会計クンは鷹揚自若 13

13 泰明(TAIMEI)

 危なかった。

 五十嵐の家から再び自分の家に帰る為の電車の中で六平は溜息をはぁ、と吐き出した。
 よろけた五十嵐の身体が白線を越えたのに驚いてすぐに手が出たのがよかった。
 すかさず五十嵐の斜め後ろにいた奴らを確認すれば見た事のある五十嵐と同じ1年だ。
 あまりにも悪質すぎる。

 いつも顔を俯けない五十嵐が電車の中で頭を垂れ、震えているのを見た時に華奢なその背中を抱きしめて安心させたくなった。
 五十嵐に手を出した奴らは同じ電車に乗ったものの泰明の一つ前の駅で降りたし、泰明とぎっちり視線が合って真っ青な顔をしていたからとりあえずもう今日みたいな悪質な事はないとは思うが…。
 安易な嫌がらせで手を出しただけ、と見えなくもなかったがいきすぎではあるのに五十嵐の心情を思えば顔は渋面を作ってしまう。

 しかしあんな事があっても家で一人って…。
 その方がいいなんて…。
 家でも一人…?学校でも一人…?
 泰明は眉間の皺を深く刻んだ。
 泰明だって人と接するのが好きかと言えばそうではないが、話をしたりつるむ相手はそれなりにいる。
 いつもいつも学校で五十嵐は顎を突き出して…。
 泰明はぎゅっと拳を握り締めた。


 翌朝、駅で五十嵐が乗るだろう電車の3両目の前で待っていればちゃんと言った通りに乗っていたらしくドアの横に五十嵐の姿が見えた。
 「お…はよ…ござぃ…」
 五十嵐が顔を俯け、小さな声で語尾を聞こえなくさせながら挨拶するのに思わず口元がにやけた。

 コレ可愛いじゃねぇか。

 今までの経緯でなんとなく五十嵐が見えてきた。
 家でも一人で学校でもあれで…、去年までだってちやほやはされていたが、それは仲いい友達だったわけでもなく、コイツは好意にどうしていいのか分からないんじゃないのか?
 「おはよう」
 そして泰明が五十嵐の後ろに立てば視線が下になる五十嵐が顔を俯けて居心地悪そうにもぞもぞと動いている。

 白い項が仄かにピンク色になっているのが扇情的に見えてしまって泰明は頭を振った。
 どうもまずい方向にいっている気がする…、と泰明は自分で自分を分析した。

 実は黒髪黒眼のきつそうな五十嵐の顔は元々泰明の好みではある。
 気の強そうな所も。それなのに弱い所を見せられたら守ってやりたくなるだろう。

 泰明は頭を抱えたくなった。
 学校では決して見せない、水族館での態度が可愛いのにははっきりいって普通に素で可愛いと思ったくらいなんだから。

 会長と副会長があれで毒されてるのか…?

 冷静になれ、と泰明は自分に言い聞かせる。
 五十嵐に関与せず放っておくのが一番いいだろうが、昨日のあの悪質な事を考えればそれも見て見ぬふりも出来ない、とも思ってしまう。
 そのまま学校近くの駅に着いて電車を降りると五十嵐の後ろを泰明が歩いて学校に向かった。
 そういえばいつも顎をつんと突き出している五十嵐が顔を俯けたままだ。

 「五十嵐?」
 「……え?」
 真っ黒の大きい瞳が振り返って泰明を見上げたのに不安そうな色が見え、泰明は思わず溜息を吐き出した。
 やっぱり放っておくなんて出来そうにない。
 「…もし何かあったらすぐ言え。いいな?」
 「そ、んな……別に…たいした、事じゃ…」
 「たいした事だろ」

 三浦くんか柏木が同じクラスなら頼んでもいいが…。いや、そういえば三浦くんは五十嵐を嫌いだ、と言ってたし柏木も苦笑を浮かべてた。
 何したんだコイツ?
 思わず泰明は訝しんだ。
 柏木にばっかり話しかけて三浦くんを無視?今はないとも言ってたけど…。
 たいした事じゃないなんて不安そうな目で言う五十嵐に泰明はどうしても庇護したくなる気持ちが出てくる。
 

 「会長、ちょっといいですか?」
 「なんだ?」
 どうした?と二宮副会長も来た。
 「昨日帰りの電車で…」
 見た事、あった事を告げると会長と副会長の表情が険しくなった。
 「俺が見ていたのをあっちも分かって真っ青にはなっていたからこれ以上は大丈夫かとは思いますが…」
 会長が難しい顔をしている。

 「…しばらく六平は五十嵐を……。って六平に頼んでいいのか?」
 「え?」
 「本来は別に六平に頼む事でもないとは思うが…。まぁ、君は五十嵐と縁戚にもなるんだしいいか」
 「はぁ、まぁ…。別に構いませんけど」
 …というか最初から頼まれずとも自分が守ってやる気だったのだ。
 「二宮」

 「……分かってます。私情は抜きますよ。そんな話ではない。命にも関わるんでしたら。……ただし、また前と同じ事をされたら俺キレますよ?」
 「大丈夫だろ」
 「そうですか…?」
 「?」
 二人の会話が分からない。

 「翔太もなぁ…五十嵐をよくは思ってもないし…柏木にでも…」
 じろりと副会長が会長を睨んでいた。
 「敦の協力はなしです」
 やれやれと会長が肩を竦めた。
 「まぁ五十嵐が自分で敵を作ってきたから仕方ないな。六平、がんばれ」
 会長に突き放されたように言われてしまった。
 
 

テーマ : BL小説
ジャンル : 小説・文学

電子書籍

サイトはこちら

バナークリック↓ banner.jpg

Twitter

いらっしゃいませ~♪

リンク