20 駿也(SYUNYA) ちょっと寝たからかあまり眠くなくなって、もぞもぞとベッドで動いてしまう。
するとはぁ、と六平が溜息を吐きだした。
「…眠くないのか?」
「…ん…。さっき寝たから…あんま…眠く、ない…」
イルカを抱きしめたままなのは自分でもちょっとガキっぽくて恥ずかしいけどもう見られてるんだからと開き直る。
六平が椅子をさらに引っ張ってきてベッドのすぐ脇、駿也が手を伸ばせば、触れられる所まで近づいてきた。
そして駿也の顔見てちょっと逡巡しながら六平が口を開いた。
「お前……苛められてる…とかでは、ない…?」
「誰、に…?家…?学校…?………どっちにしても、別にそんな事はない」
「…ならいいけど」
何の心配をしてるのかと駿也はおかしくなった。
「でもある意味、それ以下?…だって誰も俺なんか関心ないし」
「!」
六平がじっと駿也を見た。
「…六平…ウチの父親と義兄の思惑…分かってるでしょ…?あ、俺の事情も…知ってる…?」
「……ああ。知ってる、し……分かっている」
六平は誤魔化す事もなく悠然と頷いた。
「それなのに、…どうして…?」
聞いてみたかった。
日曜の水族館からこの1週間ずっと気になっていた事だ。
「なんで…?」
六平は眉間に皺を寄せて考え込み、そして駿也の顔を見た。
「…気になるから」
気になる…?
……ってどういう意味?
駿也は首を傾げた。
「そうだな…」
駿也が聞きたそうにすると六平は自分の顎に手をかけそしてまた駿也をちらと見た。
その視線にどきっと駿也の心臓が鳴った。
六平はなんて答えるのだろう…?
「五十嵐の事は小学校から知っている」
こくりと駿也は頷いた。
駿也だって小学校からの生粋の秀邦の生徒のほとんど名前と顔は見知っている。
「とくに五十嵐は有名だったし」
「……別に俺が望んだんじゃない」
ちょっとは浮かれていた所はあったけれど…。
「ああ、今なら分かる」
くすと六平が駿也を見て笑みを浮べた。
またどきっとしてしまう…。
やっぱり、…やっぱり、なの…だろうか…?
六平を見てるとどきどきが止まらないなんて…。
駿也はイルカを抱きしめる腕に力を込めてしまう。
「ずっと知ってはいたけど、俺は別に五十嵐を可愛いとも思った事はなかったし、どこが可愛い?と思ってた」
駿也はきゅっと唇を噛む。
それが普通、だと思う。
だって男なんだから。ちやほやする方、される方がおかしいんだ。
別に駿也だってそう思われたいのでもなかった。ただ、人に誉められた事なんてなかったからずっと勘違いしてたんだ。
どうせ男なら六平みたいに背が大きくて男らしい方がよかったに決まってる。
…でも…。
ちょっとは六平にカワイイ、と思われたい、と心の隅に浮かんでしまった。
他の誰かなんてどうでもいい…。
六平、だけに、だ。
だってまともに顔を合わせて話すようになってから駿也に対し普通で、しかも電車でも庇ってくれた。水族館であんなに優しくされたのだって初めてで…。
六平は普通かもしれないけど、駿也には初めてだったのだ。
「んん~~~…でも、分かった。お前がカワイイって言われてるのが」
「え?」
可愛い…?
どうしよう!?
父親と義兄に懇意になれと厳命を受けている。
意に添うつもりはなかったんだけど…。
「六平……。…………俺と付き合って?」
「………は?」
六平が目を白黒とさせていた。
「どこに?なんてベタな事言わない、よな…?ずっと秀邦なら…分かる、だろ…?」
駿也がどきどきしながらも挑戦するように言えば六平は駿也を凝視し、そしてちょっとするとくっくっと笑い出した。
「いいだろう」
「……え?」
強気の構えを見せた駿也だったけど、まさか六平が頷くなんて思ってもみなかった。
思わず駿也は自分から言い出しておきながらきょとんとして六平を見た。
六平は今なんて言った?いいだろう?
六平はゆっくりと椅子から立ちあがりそして駿也のベッドに端に腰かけた。
そして駿也にじっと視線を向けながらそっと手を伸ばしてくるのに駿也はぎゅっと目を瞑った。
心臓がとんでもなくうるさい!
「五十嵐…いや、ウチの由梨も五十嵐になるんだからな…駿也」
うわ!うわ!何言ってるんだ!こいつ!
駿也は暴れようとする心臓を宥めようとするけれどどうにも治まりそうがない気がする。
「お前も俺の事は名前でいいから」
「た、い…めい…?」
かぁっと熱がますます上がってきたように感じながらそう六平を呼ぶと六平の手が駿也の頬に触れた。
そして六平の顔がゆっくり近づいてくるのが分かった。
…なんで?
そっと触れるだけのキス。
いや、付き合って、って自分から言ったんだ…。
駿也の頭の中がぐるぐる回っていた。
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