23 駿也(SYUNYA) 日曜日は熱も下がったけれどどうせ出かける事もないし駿也は大人しく部屋に籠もっている。
朝から何度も泰明からメールが来ていた。
熱は?
大人しく寝てろ。
ご飯食ったか?
何してた?
それがおかしくて駿也は顔が笑ってしまう。
泰明はこんなに気にしてくれる。
それが嬉しい。
昨日熱があった事を知っているはずの義兄はすでにもう出かけた。
顔だって合わせていない。
半分は血の繋がりがあるはずの義兄がそれで、他人であるはずの泰明がコレなんだから…。
携帯を手に持ちながら駿也はどうしたって泣きたくなってきそうになる。
「泰明…」
そっと名前を呼んでみる。
もう昨日から何度も何度も泰明の名前を確かめるように呼んでいた。
夢だったのではないだろうか、と思うけれどそうじゃないといわんばかりに携帯にメールが来るのが嬉しい。
そしてそれがぱたりと来なくなると不安が出てきてしまう。
メール来ないかな…?
じっと携帯を持って待つけれど泰明からメールが来ない。
お昼過ぎくらいまではとろりと来てたのに午後になってからぱたりと来なくなってしまった。
飽きた…のかな…?
自分からメールすればいいのに、駿也は何を打っていいか分からなくてただ携帯を何度も眺めるだけ。
泰明は何をしているんだろう…?
もしかして自分は何か泰明の気に障るようなメールを返してしまったのではないか、とまで思って不安になった。
夕方になってやっと泰明からメールが来たのに駿也はがばっと携帯に飛びついた。
<ちゃんと休んでいたか?具合は悪くないか?>
泰明は駿也が休めるようにとメールをよこさなかったのか…?
来ないほうが気になって気になって仕方ないのに。
でもそんな事も言えない。
<ちゃんと寝てた。熱ももうないし、具合も悪くない>
メールなんてしないからどう返事していいか悩む。
言葉がつっけんどんになっているのも分かる。
送信してから文章を読み返すと怒っている感じにみえなくもないのに自分で慌てた。
もう一度開いて<メール嬉しい>と一言だけ入れてすぐにまた送る。
連続で送るのなんてウザイだろうか…?と思う気もするけれど、どうしても駿也の文面はどれも自分で読んでもぶっきらぼうに見えてしまう。
自分でもそう思う位なら泰明だってきっとそう思うに違いない。
…そうじゃない事を伝えたかった。
本当はメールをずっと待ってたとも言いたかったけれどさすがにそれは押し付けがましい気がした。
すぐに泰明からメールが返ってきてドキドキしながら見る。
<ウザくないならよかった。また夜にメールするけどちゃんと静かにしておくように>
泰明の仄かに見せる笑みまで頭に浮かんで駿也はイルカをぎゅっと抱きしめる。
「泰明…」
明日になれば泰明に会える。
泰明に買ってもらったイルカは部屋にいる間はほとんど駿也の腕の中にいる。
だって安心するから…。
どうしよう…。
メールが嬉しいなんて初めて知ったかも。
阿部からもメールが来てたがあれは恐怖でしかなかった。
阿部がいなくなったことでメアドもかえたけど、変えたからって誰かに知らせる人もいなかった。
いつもと変わらないしんとした部屋なのに昨日泰明がいた事を思い出し、メールでの気遣いがみえればいつもと違う感じに思えるのはどうしてなのだろうか?
駿也の心情が違うだけなのに。
付き合って、と言った駿也の言葉にいいだろう、と泰明が答えてくれた。
たったそれだけ、なのに…。
この1週間泰明はずっと駿也を見守るようにいてくれた。
それがずっと続くのだろうか?
また水族館に行ったようにどこかに出かけたり…?
昨日だって出かけるといって迎えに来てくれたんだ。駿也が熱出していたから行けなかったけれど。
駿也、と泰明が名前を呼ぶ声も聞こえそうな位に駿也は泰明の事ばかり考えていた。
本当に…いいだろう、なんて泰明が承諾したのが信じられないくらいだ。
きっと泰明は軽い気持ちだったんだろうけれど、それでもこうしてメールとかしてくれるんだからなんでもいい。
泰明の特別になれるなら、なんでも。
イルカを駿也はぎゅっと抱きしめた。
テーマ : 自作BL小説
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