25 泰明(TAIMEI) 体育を終えて教室に帰る途中、駿也も教室移動なのか泰明達の方に向って歩いてくる所だ。
……隣は、高跳びの特待で入った八月朔日か?
苗字が珍しいので覚えていたが…。
なんで駿也と…?
「六平?どうかした?」
「え?ああ、いや別に…」
一緒にいた七海が泰明の視線を追った。
「五十嵐くん、と八月朔日(ほずみ)……?」
七海も八月朔日の名を知っていたらしい。
珍しい事だ。
駿也がはっとした顔をして泰明を見た。
泰明が声をかけようかと思ったら駿也はむっと口を結び、ぷいと泰明から顔を背ける。
「?」
なんだ?
「五十嵐?六平さん…だけ、ど?」
すれ違う時に八月朔日が駿也に小声で言っているのが聞こえたが駿也は顔を背けて泰明を見もしない。
……なんかしたっけ?
思わず泰明は頭を傾げて考えるが別に朝は普通だったし何もなかったはず。
そのまま駿也は泰明を頑なに見ないまま角を曲がって階段に行ってしまう。
「う~~~ん?」
思わず頭を抱えた。
「六平?五十嵐くん…と仲良くなったんじゃないの?」
「…なはずだけど」
七海が不思議そうな顔で聞いて来た。
その五十嵐が曲がった階段の方から叫び声が聞こえてきて泰明は弾かれたようにすぐに声のするほうへ走って行った。
「五十嵐っ!?」
八月朔日の声か!?
ばたばたと泰明が走っていくと階段の下に駿也が倒れていた。
「駿也っ!」
呻いている駿也を抱き起こそうとする八月朔日を泰明は押しのけた。
「駿也?」
駿也が顔を顰めていた。意識はあるらしい。
「い…た……」
駿也が足に手を伸ばした。
「足か?頭は?打ってないか?」
「頭は打ってない…。足、痛い」
泰明は駿也の身体を起こしてスラックスを捲くる。
くるぶしがすでに赤く腫れ上がっていた。
「……保健室行くぞ」
駿也の身体を抱き上げると足が痛いのか駿也の顔が歪む。
「六平さん…。五十嵐、誰かに…」
八月朔日の言葉に泰明が頷いた。
「分かった。八月朔日、その事は言わないで担任と次の教科の先生に五十嵐が怪我した事を言っておいてくれ。七海、俺は五十嵐を保健室に連れて行くから」
七海が階段の上で頷いている。
「…泰明」
駿也が泰明の腕の中で不安げに瞳を揺らしていた。
「…ついててやるから」
小さく駿也に言ってやると駿也はぐっと唇を引き結んで小さく頷いた。
抱きかかえたまま保健室に連れて行くと、捻挫だとは思うけれどと保健室の先生が湿布をしてくれる。
「でも病院行った方がいいな」
「…俺、ついていきますから。駿也の家、誰もいないだろう?」
こくりと駿也が頷く。
「……ここの生徒はどうつもこいつも…」
保健の先生が呆れたように泰明を見ていた。
どいつもこいつも?なんの事だ?
「……五十嵐くんもそれでいいのか?」
こくりと駿也が頷いている。
「まぁ、君達は身内になるみたいだし…いいか?」
先生方も情報は聞いているらしい。
「じゃあ俺、鞄とか持って来るから。駿也の分も」
「泰明…」
「大丈夫だ。すぐ戻るから」
駿也が小さく頷いた。
泰明は教室に戻ってさっさと体操着から着替え、七海に駿也を病院に連れて行くからと告げすぐに駿也のクラスに行って八月朔日にも一応、駿也を病院に連れてくと告げ、駿也の鞄を持ち保健室に向う。
「駿也?大丈夫か?」
「……足、じんじんする」
駿也が顔を歪めていた。
「保健の先生は?」
「タクシー呼んでくれるって」
「ああ…。………駿也、誰かに、押された?」
こくりと小さく駿也が頷いたのに泰明は眉間に皺を寄せた。
電車での奴らだろうか…?
駿也は泣きそうに顔を歪ませているが我慢しているのが見えれば安心させたくなる。
「駿也…大丈夫だ」
「…泰明…」
駿也の声が少し震えた。
駿也が一体そんなに何をしたというのか。
電車でホーム下に突き落とされそうになって、その時は何もなかったからよかったが、今回は怪我までしてるんだ。
「タクシー来たぞ」
保健の先生が戻ってきたので泰明は駿也の身体を横抱きにする。
「…コレ、恥ずかしいんだけど」
五十嵐が顔を仄かに赤く染めながら身体を縮こませる。
「歩けないんだから我慢しろ」
「…重い、だろ」
「全然」
先生が鞄を持ってくれてタクシーに乗り込んだ。
「足、上に上げておいたほうかいくらか楽だと思うぞ?」
「分かりました。駿也」
泰明はそっと駿也の足を持ち上げると駿也が痛そうに顔を歪める。
そんな駿也を見ていれば泰明に憤りが浮かんできた。
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