27 泰明(TAIMEI) 眠ってしまった駿也の額に触れると熱で熱いのに泰明は眉を顰める。
華奢な身体だ。
泰明が軽々と抱き上げられる位に。
痛いのか、熱でなのか、駿也の息が浅い。
電車でのホームでは助けられたのに、今回は怪我を負い、苦しそうな息を繰り返す駿也に泰明はやるせなくなる。
そして誰かに押されたというのに駿也はその相手を詰る事もしないのに泰明はさらに眉間の皺を深く刻む。
「駿也くんは?」
「…眠った。熱がけっこうあるみたいだ」
「氷枕用意してあげる。……それにしても怪我したというのに…」
母親が言いよどむのは駿也の家にだ。
「…足よくなるまで置いていいか?」
「勿論よ。まだ小さいし」
「…あのな、俺と一つしか違わないだろう。身体は細いけど」
「…食べてないのかしら?」
「………体質だろ」
「裕也さんもお父様も結構いい身体してるのにね。…あなたと比べるとなんか駿也くんって放っとけない感じ」
「まぁ、確かに」
どこか危うい感じはする。
家に着いて駿也を抱き上げても駿也は目を覚まさない。
「ぐっすりね」
「…ああ」
抱き上げると苦しそうだった駿也の表情が幾分和らいだ感じがする。
母親にドアを開けてもらって駿也を家まで運んだ。
そっとそのまま泰明の部屋まで連れて行き、ベッドに横にしても駿也は目を覚ます気配はない。
「泰明が中学校入ったばっかりの頃位の身体かしら?着替えに泰明の着なくなったのしまってあるから持ってきてあげる」
そう母親が言って持ってきてくれたので泰明は駿也の制服に手をかけた。
ボタンを一つずつ外していくと駿也の白い肌が露わになってくる。
泰明は一度目線を天井に向けてから息を整える。
汗かくから!疚しくない!ただの着替え!
自分に言い聞かせる。
眠って力の抜けている駿也の身体を抱きかかえながら脱がせ、着替えさせるのは自分との闘いのようだ。
足は動かすとまだ痛いらしく顔が苦痛に歪んでいるが起きる気配はない。
いっそ起きてくれれば自分を抑えられるのに、駿也が泰明の腕に全部を任せているという状況にどうしても余計な事をしたくなってくる。
どうにか葛藤を押さえ込んで駿也の着替えを終える事が出来ると、とんでもなく疲労を感じてしまった。
「駿也」
自分のベッドで眠る駿也の名を呼んでも目覚める気配がない。
ベッドの端に座ってそっと駿也の頬を撫でる。
「ん…?」
「駿也…?」
閉じられた瞼の睫毛が震えたのに声をかける。
そして顔を近づけると今まで我慢した分、と頬にキスした。
「た…いめ…?」
うっすらと目を開けた駿也に声をかける。
「ああ。大丈夫か?」
「あ、…い、今…」
駿也がキスに動揺してさらに顔を真っ赤にさせたのが可愛くて思わず泰明はくっと笑ってしまった。
「駿也」
そしてもう一度顔を近づけて軽く唇を重ねる。
心配で連れてきたのはいいけれど自分のベッドに無防備でいる駿也に箍が外れそうだ、と唇を離すと思わず自嘲が漏れた。
駿也はどうしていいか分からないように黒い眼を見開いて顔を真っ赤にし、潤んだ瞳で泰明を見ていた。
その頬を撫でる。
「たい、め、い…」
「うん…。駿也は寝てていい。ここにいるから」
「…ん…」
小さく駿也が頷いてもぞりと身体を動かすと不思議そうな顔で周りを見渡した。
「泰明、の…部屋?」
「ああ」
そしてまた恥かしそうにして布団を引き上げている。
きっと泰明のベッドだと分かったからだ。
う~~ん…やっぱ可愛い…。
「あ、れ……?」
今度は布団を持ち上げて自分の胸元を見ていた。
「ああ、着替え、……悪い……勝手にしたけど…」
疚しい目でちょっと見てしまった為に泰明の歯切れも悪くなってしまう。
「あ…り……が…」
と、と小さく語尾が消えながら言う駿也は本当に可愛くて泰明は頭を抱え込みたくなった。
きっと父親と兄の思惑の為に駿也は付き合ってと言ったのだろうが、嫌われていないのも分かる事で、それならば泰明が離さなければいいだろう。
キスだって嫌がる素振りはどこにもない。
きっと家と学校での駿也の周りの態度があれで、泰明が駿也を気にしている事に今は満足だからだろう。
すでにもう泰明の中で駿也は関係ない、とは言えない位置にいる。
どうしたって気になってしまう。
ほんの1週間前には何とも思っていなかったのに。
苦痛も何も和らげてあげたい。
そう思える位になっていた。
テーマ : 自作BL小説
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