29 泰明(TAIMEI) 放っておけないといったら駿也は嬉しそうにはにかんだ。
学校ではつんとしてるのに泰明といる時は駿也にそんな所は見えない。
廊下での駿也の態度も学校だったからか…?
泰明に目もくれなかった時の駿也を思い出すけれど、ここ1週間は廊下で会っても視線は合わせていたのだから、やはりどうも腑に落ちない。
泰明の携帯が震えたので手に持ってみれば会長からだった。
「もしもし…」
駿也の顔を見ながら電話に出る。
「はい。捻挫です。酷いですね。今熱が出てます。…ウチに連れて来てました。……はい…」
駿也が窺う様に見ているがきっと会長からだと分かっているだろう。
会長と懇意に、と家から言われているはずの駿也だが、その駿也は会長からの電話にも目を光らせることはない。
むしろ泰明から視線を外して顔を背けるのだ。
「…はい。お願いします」
一度目だって電車のホームでの事は悪質だ。下手したら死にもつながる。
階段での事もそう。同じ奴なのか…?
さすがに二度もあっては野放しに出来ないと会長が乗り出したので泰明は少々ほっとして電話を切った。
「会長が犯人を突き止めてくれるらしい。まぁ、ほとんど分かっているみたいだが」
「……そう」
他人事のように駿也が呟く。
「いい、のに…」
「いいわけあるか!俺が心配だ!」
ぱっと駿也が顔を上げると泰明を見て可愛い顔を歪ませた。
まるで泣き出しそうな顔。
学校ではお高く、鼻にかかっているイメージの駿也だけど、本当はこんなにも違う。
「…いいわけない、だろ…バカだな」
そっと駿也の頬を撫でるとすりと顔をこすり付けてくるのに泰明に衝動が走りそうになる。
これはマズイぞ。
「……寝てろ。何も心配しなくていいから」
泰明がすっと駿也から手を離すとまた駿也の表情が曇った。
何か言いたそうにしている。
「…なんだ?」
でも駿也は口を開かないで小さく首を振った。
「…なん、でもない」
「なんでもないじゃないだろう?」
「……いい」
「いい、じゃなくて。言ってみろ」
すると駿也が顔を真っ赤にさせた。
なんだ?
おずおずと手を伸ばしてきてベッドの端に腰かけていた泰明の服の裾を掴む。
……寂しいのか、心細いのか…。
その手を握ってやると駿也が嬉しそうにしてもじもじとしていた。
ああ、そういえば熱が出てた時もちょっと離れただけで泣いていたんだった。
触れていて欲しかった、という事なのか?
「……こうしてるから、ちゃんと寝ていろ」
「……」
小さくこくんと頷くのがまた可愛い。
「……困ったな」
「え?…」
思わずそう呟くと駿也はすぐに表情を不安げに揺れさせる。
「…俺…?」
見るからに余計な考えを駿也が浮べている事が分かってしまう。
「駿也が。…でも、お前が考えているのとはかなり違う内容だぞ?」
「…え?どう、いう…?迷惑、とか…面倒……?」
「違う」
やっぱり、そんな風に考えてたのか。
「…そんな事思っちゃいない。むしろ正反対だ」
「正反対?」
今は足も怪我しているし熱もあるんだ!
「……まずはちゃんと治すことだ。いいな?」
「……ん」
素直に頷くのが可愛い。
ずっと小学校から知っている駿也の姿なのにこの1週間で印象ががらりと変わってしまった。
もうどうしようもなく可愛いにしか見えなくなっている。
自分をさらけ出すところが学校ではなかったのに泰明の前ではずっと素のままだからまた特別に思えてしまう。
そういえば…。
駿也の手を見て駿也の部屋にいる所を思い出した。
「……イルカ…」
泰明が呟くと駿也がかっと顔を赤くする。
ああ、もしかしてイルカがいなくて寂しかったのか…?
駿也は自分の部屋でずっとイルカを離す事はなかったのだ。
泰明がいても恥かしそうにしながらもずっと胸に抱いていた。
思わず泰明はくっと笑って繋いだ手に力を入れた。
「…イルカの方がいいか?」
すると駿也はふるふると小さく首を横に振るのに泰明は満足した。
「イルカみたいに可愛くはないがちゃんとここにいる」
「泰明、の方…が、いい」
小さく呟やかれた駿也の言葉に泰明は頭を抱えたくなる。
付き合って、と言った時の駿也の顔とは比べ物にならない位に可愛い顔だ。
「な、んで…泰明は…こんなに…よくして…?俺なんか、に…」
「なんかじゃない。それになんで?彼氏だろ?違うのか?」
「ちっ…ちが…わ、…ない」
「だろ?」
さらに真っ赤になるのが可愛い。
どうやら言われ慣れてないんだ。今まで散々ちやほやされてきたと思っていたが…。
「可愛いな。駿也」
さらにそう言えば駿也は目を回しそうな位らしい。
視線が定まらず駿也の視線はずっと泳いでいた。
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