32 駿也(SYUNYA) 「ん…っ」
何度もキスされて、思わず鼻から声が漏れれば恥かしくて泰明のまだ着替えていない制服を掴んだ。
好き、だ…。
思いが心に浮かぶ。
会長が迎えにわざわざ来てくれる…。
六平に付き合って、と言った時は家で言われていた事もちょっとは思ったけど、そのためだけに言ったんじゃない。
今だってそんなのの為に泰明の傍にいるんじゃない。
泰明は会長と懇意にという見え見えの父親と義兄の思惑を知っているのになぜこうしていてくれる?
明るくて裏表のないと泰明も言う三浦くんが駿也よりも人気なのは当たり前だろう。
でも、そんな事はもうどうでもいい。
ただ、泰明もやっぱり三浦くんのほうが可愛いと思うんだろうか…?
駿也は明るくもない。
裏表だって…。
そんなお前とは違うと言われているように感じてしまった。
でも泰明はキスしてきて…。
そうされるだけで駿也が泰明の特別だと言われているようで嬉しくなってしまう。
好き…。
でもきっと泰明は駿也にそんな事言われても嬉しくもないだろうし、困るだけだ。
…どうして付き合って、といった駿也にいいだろう、って泰明は言ったのだろう?
「熱、さがったな」
顔を寄せたまま泰明が駿也の顔を撫でて囁くのにこくりと頷いた。
「足も…ずきずきはそこまでしなくなった…。まだつくと痛いけど」
「当たり前だ。あとで湿布交換してやる」
「いい…よ。自分で出来る…」
「いいから。風呂は?入りたいだろ?」
こくんと駿也は頷いた。
昨日は熱もあったせいか早々に眠ってしまったのだ。
「聞いてきてやる」
「…あ、の…ごめんな、さ、い…」
「…そこは謝るんじゃなくて、ありがとう、だろ」
「ありがとう…ござい、ます」
素直に駿也が言い直すと泰明がくっと笑って駿也の頬をよしよしと言わんばかりに撫でて部屋を出て行った。
泰明がいなくなって駿也はベッドに横になって思わず布団に抱きつく。
なんて言ったらいいんだろう。
恥ずかしい、嬉しい。でもドキドキして、安心して…。
複雑に気持ちが入り混じっている。
泰明の言葉が気になって、嫌われるのが怖い。
今までバカみたいに寄って来てた奴らが離れていったように泰明もいなくなったら?
それが怖い。
泰明はきっと違う、と思う。
家の思惑も知っているのにこうしていてくれる位なのだから。
でもいつ嫌われる?
自分が人に対してどこか何か足りないのは分かっている。
三浦くんに対して謝ればいいだろう、と簡単に言った泰明に驚いた。
…二宮副会長と柏木にも謝ったほうがいいのだろうか…?
あの時は自分でも煮詰まっていたんだ。
自分の出来損ないの所を三浦くんの所為にしていたんだ…きっと…。
勝手に思い込んで、バカな事をしてた、と自分でも思う。
でもあの時はそれが自分の中で普通だと思っていたんだ。
バカだった…。
謝って許してもらえる…?
そんな簡単に…?
くるくると泰明に言われた事が頭の中を巡っている。
「あ~…駿也…」
「え?」
部屋に戻ってきた泰明が困った表情をしていた。
「風呂はいい、んだが…」
「?」
「一緒に入って来い……って。男同士だし別にいいでしょ、って。足もひどいだろうしって…」
泰明のお母さんの言葉なのだろう。
普通だったら、そうだけど!
「あ、あ、…そ、そう…だ、よ……ね…っ」
声が上擦ってしまう。顔が赤くなってしまう。
お風呂!?一緒に!?泰明と!?
修学旅行やなんかの学校での行事では別に何とも思わなかったけれど、泰明と、に動揺してしまう。
泰明も困り果てた表情しているって事は同じ気持ち?
普通になんでもないならのだったら勿論気にしない。
でも…泰明とキスまでしちゃうのに…どうしたって意識しちゃうのは当たり前で、でも断るのだっておかしい話だ。
「う~~ん…なるべく疚しい気持ちは抑えるようにする」
疚しい気持ちっ!?
「な、な、何…言って…」
かあっと駿也の顔が熱くなる。
泰明は苦笑しながら制服を脱ぎ始める。
ただ制服を脱いでるだけなのにもどきどきしてきたのに駿也は目が回りそうだ。
体育の時だって皆普通に着替えしてるのに!
なんで泰明だとこんなにどきどきするんだ!?
見ていられなくて思わず布団を被ってしまう。
恥ずかしいっ!
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