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熱視線 無伴奏~ア・カペラ~6

 「怜さんはお父さんとこのオケでピアノ協奏曲?」
 「だから、それを作るのがお前なんだろ」
 「でも正式じゃなくて…?」
 「だろ、なにしろ曲がまだない」
 「……………」
 二人で頭を捻る。
 「……まさか、嘘だよな?」
 「……嘘ではない…と…お父さんこんな冗談言わないと思うけど…」
 でも明羅だって首を捻る。
 「その後に言われた怜さんと一緒に…って?」
 「ああ、明羅が世話になっているから来て欲しいって言われた、けど…」
 怜と顔を合わせた。
 そして大きく二人で溜息を吐き出した。
 「……俺、ご飯食べたらパソコンしてくる。いいけどオケの編成どうするんだ…?」
 「…知るわけないだろ」
 また二人で溜息を吐き出した。
 「頭にだいたい浮かんでるからいいけど…」
 「いい……って…」
 怜が絶句している。
 「…どんくらいの曲…?」
 「う~~ん…さぁ?入れてみないと分かんないけど…。どうなる、かなぁ…」
 「………お前の頭の中はどうなっているんだ?オケの音は?分かるのか?」
 「まぁ、お父さんとこなら何度も聴いてるし」
 「ベルリンっ…だろ!?」 
 「うん。だから言ってるでしょ。世界の名だたるものほとんど聴いてるって。ほんの小さい頃はあっち住んでたし、夏休みはこもりきりになってたけど冬休みは両親について歩いてたし」
 「………どんな子供だ」
 「でもぞくぞくくるのは怜さんだけ、なんだよね…」
 「………………なんか俺恐ろしくなってきた」
 怜がじとりと明羅を見ている。
 「え?」
 「いや、いいけど…。明羅くんは頑張って下さい。俺はおさんどんに徹します」
 「だめでしょ。きっとその日本に帰ってきた時家来いってことは弾かせられるでしょ」
 「げっ!」
 「練習、してね?」
 「…コンサート終わったばっかなのに?」
 怜が頭を抱えた。
 「しかもお前の両親の前で!?世界でそれこそ前線で演奏してるって人の前だっつぅだけでも緊張するだろうに、あげくにお前の親だぞ?お前にイケナイ事してる自覚がある以上こりゃ拷問だろうが」
 「…知らな~い。がんばってね?」
 動くのが辛い身体にちょっと恨みを込めて明羅が怜ににっこりと笑った。
 「明羅くんが怖い~」
 「嘘だよ。怜さんなら大丈夫だから。問題は俺でしょ。今から2週間位か…」
 怜が恨みがましい目をしていた。
 「……折角の明羅の冬休みが…。いっぱいできると思ったのに」
 「………だからっ…」
 今も動けないくらいなのに。かっとすぐ明羅は顔が赤くなって俯いた。
 その時指輪が目に入る。
 じっと指輪に見入った。
 「明羅?」
 「え?あ、……うん。曲、変えよう…」
 「はい?」
 「今、別なの浮かんだ」
 明羅はふふと微笑んだ。

 
 きっと普通の高校3年生で進学先就職先決まっていなかったら慌てている時期だろうにやはり暢気だ、と明羅は自分でおかしいな、と思う。
 毎日ほぼパソコンに向かう。 
 怜さんはピアノ練習かそれ以外はパソコン部屋のカウチにいて、明羅が振り向いた時に姿があるとほっとした。
 曲がピアノだけじゃないせいなのか、時間があるせいなのか、前みたいに意識が飛ぶほど集中という感じではない。
 でもパソコンに向かってる時間は多くて、怜の言葉じゃないけど折角の冬休みが、と思わないでもないけど、充実しているとも思う。
 

 きりがいい所で息をついて後ろを見ると怜がいて、だいたい怜がいる時は本か楽譜を眺めている。
 「明羅」
 明羅が振り向けばすぐに気付いて八重歯をのぞかせて笑い、ちょいちょいと手でおいでとされると明羅はふらふらと吸い寄せられるように怜に抱きつく。
 「今回は余裕な感じ?」
 「そうじゃないけど…。楽しいは楽しい……」
 幸せだ、と感じる。初めての感覚かもしれない。
 いつも音を追い求めて焦燥感ばかりだったと思う。
 今はその求めた音を、怜の音をどうしたらさらに引き出せるだろうかが課題のようだ。
 怜の首に手をかけで鎖を辿る。
 その先には指輪。
 ピアノの練習があるので鍵盤にかつかつ当たる指輪を怜は首にかけている。明羅は今はまだ指にしてるけど。
 それを見れば口端はどうしても上がってしまう。
 指輪を触って、見るのが癖になっていた。
 それを見て怜も口角を上げる。
 明羅がそれを大事に思っている事を分かってくれるのだ。
 愛情があるという事が心に平安を与えてくれる、それも初めて知った事だった。
 
 

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