33 駿也(SYUNYA) 泰明が着てたという服を泰明のお母さんが出してきてくれて、それを貸して貰い、着替えを胸に持ち泰明に抱きかかえられる。
心臓がどきどきしてしまう。
なんでもない!
……って思ったって無理だっ。
抱きかかえられるのだって一人で大丈夫、と言いたいくらいなのに、でもまだ足をつくのは本当に痛くて階段は無理。
「そんなに緊張しなくても」
緊張で身体が強張っている駿也にくくっと泰明が笑ってる。
「だ、…って…」
泰明以外だったら別になんてことない。
だからって泰明以外の誰かにこんな事されたくもないけれど。
「タオルとかも出してやってね~」
泰明と付き合ってるとか、男同士で好きなんてきっと思ってもいないだろう泰明のお母さんの明るい声に申し訳ないと、思わず駿也は身体を竦めてしまう。
脱衣所で降ろされて泰明に手を添え捻挫した方の足を上げて片足で立った。
軽くなら下につく事も出来るけどやっぱり痛い。
「タオル」
泰明が脱衣所に置かれた引き出しから出してくれて受け取るけど、何したらいいか分からなくなる。
「上脱いで。足の包帯は外してやるから」
駿也の頭の中がぐるぐるしてるのが分かっているのか、泰明に言われるまま駿也は動いていく。
駿也の包帯を外すと泰明も脱ぎ始めるのに視線もどこ向けていいか分からなくなってくる。
目が回りそうだ。
なんで男同士で何でもないはずなのにこんなんなるんだ!?
とにかく見られるのも恥ずかしいし、見るのも恥ずかしい。
ホント腰にタオル巻いてるのが助かった!
泰明の肩に掴まったり、抱きかかえられたりしながらどうにか湯船にまで浸かってほっと息を吐き出した。
落ち着いた色合いのお風呂場だし、それでなくとも泰明の家は品がいい、と思う。
家は駿也の家の方が広いけれど駿也の家はあちこちがぎらぎらして落ち着かないが、泰明の家はなんでも物がいいし、吟味されているものを使っていると思う。
二人で入れる位の湯船に駿也が入って、泰明が頭を洗っているのを駿也は思わずじっと見てしまった。
泰明が駿也の方を見てなかったから、だけど…。
腕とかなんで筋肉あるんだ?
そういえば高校では部活入ってないけど小学校からバスケをしていたのを思い出した。
中学の時もそうだ。
「…バスケ、なんで高校ではしないの…?」
「ん?ああ、俺?背がちょっと足んねぇ。180位じゃな…。それにそこまで上手くもなかったし、入れ込んでたわけでもなかったからな」
駿也は自分の貧弱な身体と違いすぎる泰明の身体をじっと見た。
こんなんだから駿也を抱き上げる事も出来るんだ。
それにしても泰明の家で一緒に風呂って……。
恥かしすぎる。
「身長…そんなにあるのに足りないって…ずるい」
駿也が言うと泰明が頭を洗いながら駿也をぱっと見た。
そしてくくっと笑う。
「お前はちっさいな」
「…そこまで小さくはないと思うけどっ!」
「平均よりは小さいだろう」
…そうだけど。せめて170センチは欲しい!とは一応は思っている。
裸の泰明を見ていられなくて駿也はふいと視線を避けた。
変だ!
自分が!
どうしたらいいんだろう?
こんな気持ちは初めてだ。
ずっと見て知ってるのになんでこんな…?
バスケしてたのだって知ってる。
部活してたのを見た事もある。
でも今までこんなドキドキなんてした事もなかったのに。
知っていてもそれだけだったのに…。
水族館に連れて行ってくれたから?
ホームで助けてくれたから?
熱出てるときに傍にいてくれたから…?
……分からない。
でもこうして足怪我して自由にならない駿也の傍にいてくれるのは家の人じゃなくて泰明だ。
「泰明…」
「うん?」
泰明がシャワーで頭を流しながら返事する。
「あり、がと……」
「あ?何?」
小さすぎた駿也の声はシャワーの水音に消されて泰明の耳に聞こえなかったらしい。
「ううん。なんでもない」
「?」
泰明が不思議そうな顔で駿也を見た。
「熱ももう大丈夫みたいだし。足もいくらかはつけるようになったし。そのまま無理するなよ?」
「ん…」
怪我していれば、その間は泰明の傍にいられる?
それならばかえって嬉しい位だ。
湯船で充分温まってから泰明にかかえられるようにして風呂を上がる。
渡されたタオルで身体を拭いていると泰明が駿也をじっと見てた。
「な、なに?」
「いや、白い綺麗な身体だと思って」
「な、なに!そんなエロおやじみたいなことっ!」
駿也が顔を真っ赤にして思わず声を上げると泰明が肩を竦めた。
「仕方ない。そう見えるんだから」
かっとして駿也はそそくさと借りた衣服を身に着けた。
「湿布してやる」
同じく着替えを終えた泰明が笑いながら駿也を抱き上げる。
同じシャンプーの匂いが泰明からふわりと香るのに駿也の顔がぶわっと赤くなり、心臓がまたぎゅっと苦しくなった。
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