37 駿也(SYUNYA) 泰明っ!
授業が終わって自分の席に座ったままでいると泰明がクラスまで迎えに来てくれたのに駿也の顔が思わず綻んだ。
「……ん~~~……」
「?」
その駿也を見て泰明が難しい顔をした。
「な、なに?」
「いや……まずい、かなぁ…?」
なにが?
「五十嵐、鞄を持ってやろう」
「え!?」
泰明の後ろから会長が声をかけてきたのに駿也は首を振った。
「い、いいですっ」
「いいから。六平、五十嵐を抱いたまま翔太のクラスまで寄られるか?」
「構いません」
「じゃ行くぞ」
泰明がさっさと駿也を抱き上げてしまうのにいたたまれなくて駿也は身体を小さく縮こませた。
そしてその後ろに副会長の姿があったのにも気付いてさらに小さくなる。
「翔太」
「和臣!」
会長を呼び捨てにするなんてそのオーラの前に普通は出来ない事だと思うけれど、三浦くんはいたって普通だ。
「六平、あれだろう…?」
会長の言葉に泰明の視線も一点に集中していた。
「?」
なんだろう?と駿也は泰明の顔をきょとんと見上げた。
「…あれですね」
駿也も一緒にそちらに顔を向ければ3人ほどが隠れるようにして教室を出て行くところだった。
「何?どうかした?」
三浦くんが大きな目で会長を見ていた。
「いや、なんでもない。……この状態を見れば多分もう大丈夫だとは思うが」
「……そうですね」
泰明も会長の言葉に頷いている。
「柏木、それとなく五十嵐は来期生徒会役員だ、と言っておけ」
「了解っす」
「……は?」
何て言った?
駿也は目が点になる。
いや、空耳だ。きっと。
「本当は柏木も欲しいとこだが…」
「嫌です」
「分かっている」
くつくつと会長が笑っていた。
「翔太、六平、行くぞ」
「足……まだ、痛い?」
「…ちょっと…は。でも大分いい、から…」
泰明に抱かれながら移動する駿也の顔を覗きこむようにして三浦くんが聞いてくるのに駿也はたどたどしく答えた。
「…あり、がと…う…」
駿也が小さく言うと三浦くんが顔を赤くしてた。
「和臣っ!」
「なんだ?」
三浦くんが会長の制服を引っ張ると三浦くんが会長の耳に顔を近づけて何かこそこそと耳打ちしている。そうしたら会長が笑い出した。
「お前だって同じようなものだ」
「え!全然違うっ!」
「同じだ…。そうだな…来年は五十嵐と翔太は同じクラスにしよう。そうすると柏木もつけないとな」
くつくつと会長が笑っていると泰明は溜息を吐き出した。
「会長……」
「いいだろう?可愛いのが二人同じクラス。その方が安心だ」
可愛いのが二人…?自分の事か…?
「三浦くんは可愛いけど…俺は…違うし」
「はぁ!?」
三浦くんが眉を寄せてすごい形相になった。
「なに!?五十嵐くんってこんなキャラだったの!?なんか前と全然ちげぇけど!?」
前と?
泰明を見上げるように視線を向けると泰明が駿也を見て苦笑していた。
「こっちが素だ。あれは虚勢」
「……違いすぎ!…なんか……チョー可愛いし!」
「っ!な、に…?」
「お前の事だ……。ほんとマズイよな」
それを聞いてくっくっと会長が笑っている。
どうして、こんな事になっているんだ?
会長がいて、三浦くんがいて、泰明が…。
しっかりこれじゃ父親と義兄の思惑通りじゃないか。
そんな事駿也は別によかったのに…。
「駿也?どうした?」
眉間に深く皺をよせ顰め面をしているとすぐに泰明が気付いた。
「だって…これじゃ……ウチの……」
「ああ…」
くっと泰明が笑った。
「うん?」
会長がなんだ?と促すように泰明を見ていた。
「駿也は父親達の思い通りになっているのに戸惑ってるんですよ」
そう泰明が言うと会長までが笑う。
「五十嵐が気にする必要はない。ここは一条じゃないのだから」
そうは言ってもまさかそんなわけにはいかないのに…。
「ふぅん…。五十嵐がこんな奴とは知らなかった」
「和臣っ!」
三浦くんが会長の頬をぎゅっと引っ張ったのに駿也は目を見開いた。
「何する?翔太」
「面白くないっ!」
ぷんっと頬っぺたを膨らませてる三浦くんが可愛すぎる。
そして…羨ましい、と思ってしまった。
こんなに素直に自分を出せるなんて。
駿也にはとてもじゃないけど出来そうになかった。
今なら分かる。
三浦くんが可愛いと言われるのが。
当たり前だ…。
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