はのんのBL部屋

39 駿也(SYUNYA)

　そういえば足が治ったら…と泰明が言っていた。
　手を出す、と…。

　日が過ぎ、普通に歩く分にはもう痛みはなくなった。
　会長に車を回してもらっていたけれど、金曜日にもう来週からは家に戻るし大丈夫です、といつまでも迷惑をかけていられないので断った。

　でもこの1週間の行きと帰りで三浦くんと普通に話しが出来るようになった事が嬉しかった。
　それも全部泰明のおかげだ。
　本当に三浦くんはころころと表情が変わって見ているだけでも微笑ましい感じがする。
　自分とは大違いだ。
　自分を飾ることもしないしそのままストレートに出せるのが羨ましくて仕方ない。

　駿也はどうしても身構えてしまうから。
　自分を取り繕って、虚勢を張って、それで自分を保っていたから。
　どうしたって真似できない。
　泰明だってきっとそんな自分なんかより三浦くんの方に好感持つだろうに…。
　でも三浦くんは誰が見ても分かるように会長の前だと特に可愛く見える。それに会長も…。
　きっとそんな三浦くんだから会長位の人が傍に置いてるんだ。
　
　三浦くんはいいんだ。見てれば会長の事が特別なのが分かるから。
　問題は泰明と同じクラスで泰明と仲のいい七海さんだ。
　学校で見かけるたびに泰明と一緒にいる。
　それもいい、んだけど…。
　なんか…。

　七海さんは独特の雰囲気で、泰明以外の誰かと話しているのをあまり見た事もない。
　長めの髪で、物腰が柔らかくて、思わず見ているこっちがどきっとしてしまうような時がある。
　上靴に石ころでも入っていたのか、泰明の肩に捕まって上靴脱いでるところを見た時は思わず駿也はかっとしてしまった。
　他の誰かが同じ事してもきっと気にならないだろうけど、七海さんはどうしても気になってしまう。

　だって…密かに綺麗だ。
　眼鏡かけてるし話さないし目立たないんだけど、でも一緒にいる泰明はきっと分かってるはず。
　一緒にいる所を見るとついやきもきして駿也はつんと泰明から視線を外してしまう。
　もう足が無理しなければよくなったので、学校でも暇たって泰明が駿也の所に来なくなったのも駿也にしてみれば見放されたように感じてしまっていた。

　自分が、自分が、……。
　あまりにも自分勝手なのは分かっている。
　こうして足がよくなっても泰明は駿也についていてくれるのに、それでも不安で、もっととどこまでも欲してしまうんだ。
　そんな自分に自分自身嫌気がさす。
　こんなの泰明に知られたら嫌われるに決まっている。
　
　「駿也？」
　「…何？」
　明日は土曜日で明日まで泰明の家にお世話になることにしていた。
　日曜には自分の家に帰らなくてはいけない。
　それも仕方ないからいいんだけど、駿也の足がよくなるにつれ、泰明は駿也にあまり触れなくなったし、それに掠めるようにキスしてきてたのもなくなってた。
　やっぱりもういらない、のかな、とも思ってしまう。

　足がよくなったら手を出すって言ってたのに…、かえって泰明は駿也から離れている。
　「どうかしたのか？」
　「え？何が？」
　泰明から推理小説を借りて読んでたけど考え事をしていて全然ページが進んでいなかった、とはたと気付いた。
　「……なんでもない」
　駿也が答えると泰明は小さく溜息を吐き出した。
　「なんでもないようには見えないけど？」

　「なんでもないっ」
　だってこんなのは駿也の我儘でしかないんだから！
　付き合って、って言って、いいだろうって、……。
　……いいだろう…？
　「ぁ……」

　駿也は泰明といるとドキドキする位好きだと思うけど、泰明はもしかしてそうじゃない、のか？
　思わずじっと泰明の顔を見た。
　そういえばいつも泰明はキスにも平然としてるし。
　付き合ってるんだから特別だ、とは言ってくれたけど、でも別に駿也を好きなわけじゃない…？

　…そんなの当たり前、か。
　こんな素直でもないのに好かれるはずないだろう。
　でも特別って言った…。
　特別じゃなきゃ家にまで連れてこないって…。

　特別=好きと、違う…？
　そんなの分からないし、そして聞けもしない。
　だってもし好きじゃないって言われたら？
　特別とは言ったけど好きと違うって言われたら…？
　駿也は顔を俯け、本に集中するふりをした。
　どきどきと心臓が動揺していやな音をたてている。

　どうしたら泰明を手に入れられる？
　三浦くんみたいに可愛くもないし、七海さんみたいに惹きつけるなんて自分には出来ないのに…。
　どうしたら…。
　泰明に突き放されるのが怖い。
　　
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テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学