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熱視線 無伴奏~ア・カペラ~7

 早く仕上げたい。
 明羅はほぼずっとピアノ協奏曲にかかりきりになっていた。
 生方から作曲の依頼はもらったが急ぎのものはないし、どれも時間はさほどかからないで出来るだろう。
 怜は進行具合も一切聞かない。
 ただいてくれる。
 それが明羅には心強い。
 朝ご飯用意する、と言っていたのにやっぱり怜はいいから、と明羅はちょっと手伝う位でそれは不満なのだが。
 まず曲に専念しろと言われてしまえば黙るしかなくて。


 気付けばもう大晦日。
 「…お前の家…。家の人誰もいないってどうなの?」
 「さぁ…?」
 明羅は笑った。
 「色々忙しいからね。ニューイヤーコンサートとか、さ」
 「だろうけど…」
 「怜さんは…?いつからここに住んでるの?」
 「いつかな…20歳過ぎ頃か?」
 「……ずっと一人?」
 「そうだな。でも別に今まではそれでよかったんだがな…。今はだめだ」
 珍しくテレビをつけてソファにくっついて座っていた。
 「ずっと一人で清々していたんだが…。お前がいないとやけにがらんとして感じるようになった。お前はそんなに喋ったりうるさいわけでもないのにな…」
 「そ、うなの…?」
 「そうなの」
 怜の手が明羅のお腹に回ってきた。
 除夜の鐘がテレビで鳴っている。
 「今年もよろしく」
 怜が軽くキスしながら言った。
 「俺のほうこそ。怜さんに迷惑かけっぱなしだと思うけど」
 「全然。お前の世話なら趣味みたいなものだな。楽しくて仕方ないから」
 趣味…。
 「…なんか微妙…」
 明羅が呟けば怜が声をたてて笑った。
 「よし、初詣行くか?俺も行った事なかったけど。そんで海まで出て初日の出拝んでくるか?」
 「…行くっ!」
 明羅だってそんな事した事ない。
 「じゃ、寒くない格好してこい」
 「うん」
 明羅は声を弾ませた。
 季節が変わっていく事に着替えを取りに家に行って、今では怜の家にほぼ明羅の物が揃っている。パソコン部屋は明羅の物で埋まっていた。
 ダッフルにマフラーを巻いて携帯を持てば用意終了。
 怜もコートをすでに着ていたのに腕を絡めた。
 

 車に乗り込むと明羅の携帯がなった。
 「怜さんのお父さんだよ?」
 怜が肩を竦めながら車を出し、明羅は電話に出た。
 時々思い出したように怜のお父さんが明羅に電話をかけてよこすようになっていた。怜にはかけてこないのに。
 「明けましておめでとうございます」
 明羅が言えばそれで満足だったらしく2、3言で電話は終わった。
 「あ!お母さん帰ってくるよって言うの忘れた」
 「いいよ言わなくて。佐和子さん帰った後に教えてやればいい」
 ふんと怜が鼻息を漏らすのに明羅は笑った。
 「でも二人で帰ってくるなんて珍しいな。あ、曲もうちょっとで終わるから」
 「あ?…え?………もう…?」
 「うん。音の入力が大変なだけ。でも怜さんとこの機械だから出来るんだよ。スコアに落としてくれるから楽だし」
 「……それはよかった。…いいけど、やっぱお前普通じゃないって」
 「別にもう普通じゃなくていいよ…」
 怜がふき出した。
 そして明羅の頭を撫でる。
 「そうだな」
 くつくつと笑っていた。


 
 お正月終わったら帰ってくると言ってた父はそれ以降いつ帰ってくるも連絡がなくて、でもいつも突然だったりするから心の準備はしておく。
 とにかく曲だ!と明羅は曲にかかりきりになった。
 そうでなくとも早く仕上げたい。
 怜に早く渡したかった。
 怜もコンサートで仕上げた<ハッピバースデイ>をそのまま練習して持続させていた。
 明羅がヘッドホンをとれば怜の音が聴こえる。
 そして指輪を撫で、顔が弛んで、怜の音に聞き惚れる。
 心が充実して幸せだ、といつも感じられる。
 いつも何かに飢えたように何かを求めていた。
 それが怜の音に触発されてずっと7歳の頃から怜の音に枯渇していた。
 今は枯渇した泉からこんこんと水が湧き出るように満たされている。
 いや溢れ出している。
 溢れすぎて大変な位だ。
 曲がぐるぐるといくつも頭の中をまわっているのだから。
 これを早く出してやらないとそれはそれでパンクしてしまいそうだとも思う。
 でもまずはこれを終わってからだ、と明羅はまたヘッドホンをつけた。
 

 

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