42 泰明(TAIMEI) 駿也が上気した顔で可愛くキスをねだるのに思わず泰明は駿也を貪っていた。
自分の理性が飛ぶなんて思ってもなかったが…。
でもさすがにこれ以上はダメだ。
駿也は泰明に対してまぁ好きだという思いが向いているのは分かる。
だけど、果たしてそれがどの好きなのか?
付き合って、と言った時も好きだという言葉はなく、家とのしがらみで口に出していたのは分かっている。
ただ、それだけでないという事も分かってはいるが。
今まで駿也は家でも学校でも駿也をきっとこうして気遣って大事にしてくれる人が身近にいなかったんだ。
泰明がきっと初めてで駿也はそれを勘違いしているだけじゃないのか、と思ってしまう。
だからこそまだ手は出すべきじゃない。
一緒に家にいて我慢がキツかったが、それのせいで箍がはずれかかってしまった。
大丈夫だと、守ってやると、駿也を甘やかせたいと思ってしまう。
そしてその泰明の思いを受けてなのか、学校でも駿也の雰囲気が変わった。
つんとした部分はまだ残ってはいるけれど、泰明を見た時にぱっと表情が変わる時は目を惹かれる。
それは泰明だけでなく、駿也の周りにいる者もはっとしたように駿也を見ているから泰明の欲目だけではないはずだ。
気をつけて駿也の周りを見ていればちらちらと駿也を見ている奴らが多い。
駿也の表情が、雰囲気が変わったせいだ。
このままいくとまた駿也に対しての熱が上がってきそうな懸念が湧く。
三浦くんは可愛いけれど、どこかアイドルのような清廉とした可愛い感じなのに対して駿也は蹂躙したいというような男の征服感を刺激するような所がある。
素の駿也を知れば決して高慢なわけではないのに、自分に虚勢を張っている為にそんな印象を与えてしまうんだ。
それが和らいできたのに泰明は頭を悩ませてしまうのだ。
はぁ、と思わずため息が漏れてしまう。
駿也の好きがちゃんとした好きならば問題はないのだが…。
自分の腕の中にしまっておきたい。
駿也はきっと恥かしそうにしながらも顔を泰明の胸に埋めて満足してくれるはず。
怪我のおかげで一週間ずっと駿也といられたけれどますます可愛い、と思えるようになったし、さらに欲しいと思うようになった。
我慢がいつまでもつか…。
いや、無理やりだったといった駿也の事を考えれば絶対に急いではいけない事だ。
絶対に…。
幸いキスだけで感じる位でキスは嫌じゃないみたいだ。
早く自覚してもらわないと困る。
…泰明が、だ。
「駿也、明日朝はいつもと同じ電車で大丈夫か?駅まで本当に足、ひどくないか?」
「…大丈夫。少し早めに出てゆっくり歩くようにする、から」
泰明の腕の中で駿也が答える。
本当なら迎えにも来たいところだが…。
「無理するな?もし痛むようだったらすぐ電話よこせ」
「……ん」
こくんと頷くのが可愛い。
泰明の前では全然作ったところはないのだ。
ないけど…あれ?と泰明は首を捻った。
そういえば学校で泰明が駿也のクラスに迎えに行ったときはぱっと表情が華やぐが廊下ですれ違った時にはむっとしたような、つんとしたような時もあるのを思い出した。
何か怒らせたのだろうか?と思いながら授業が終わって駿也を迎えに行くと嬉しそうにしていたりする。
その差が何なのか泰明には分からないでいた。
駿也が恥ずかしいからかぐずぐずとして泰明に顔を伏せたままずっとくっ付いて離れない。
腕の中にすっぽりと入ってしまう華奢な身体だ。
黒い髪を撫で、その髪にキスする。
するとますますぎゅっと泰明に縋ってくるんだから可愛いとしか思えない。
もっと縋ってきていい。
誰にも目が向かない位に。
泰明も駿也を抱きしめる腕に力を込める。
自分からキスをねだってくるくらいに泰明の事は受け入れているはず。
家の事だってそんなのはどうでもいい。
ただ泰明は駿也を大事にしたい。
駿也の全部をだ。
笑っていてほしいし、安心して欲しい。
ただそれは自分にだけ、という狭量な思いも湧いてしまうが。
「だってマズイ…」
「何がマズイの?なんかずっとマズイマズイって言ってるけど?」
駿也がまだ耳まで赤くしながらも顔を上げた。
「あ?お前が可愛いってばれるのがマズイんだ」
するとまたかっと頬を紅色に染める。
ほら、駿也のこんな顔他のヤツに見られたらマズイ!絶対!
テーマ : 自作BL小説
ジャンル : 小説・文学