43 駿也(SYUNYA) 可愛いって…。
泰明が帰って部屋には駿也一人。今日は義母が帰ってきてたけど、一人で家政婦さんに用意してもらったものをそそくさと食べ、お風呂もさっと済ませてすぐに自分の部屋に引っ込む。
ずっとこの一週間泰明が傍にいたから泰明がいない事に寂しい感じはするけれど、家ではこれが普通だ。
ベッドによこになっていると、帰ってきて早々に泰明の手が駿也のものに触れて、駿也も触れて…とほんの何時間か前の事を思い出し、それだけでも顔が熱くなってくる。
そしてまた身体が疼きそうになってくるのにイルカをぎゅっと抱きしめた。
すると駿也の携帯が震えた。
泰明だっ。
慌てて携帯を見る。
<ちゃんと寝ろよ>
<寝るよ。泰明ももう寝る?>
<ああ。明日な。おやすみ>
<おやすみ>
一言だけの短いメールだけどそのちょっとでさえも嬉しい。
泰明がわざわざ駿也の為にメールをくれるってだけで嬉しいんだ。
今日もあの後、恥ずかしいのと、悲しいのとでごちゃごちゃになって顔を上げられなかった駿也をずっと抱きしめてくれてて、泰明にそうされれば安心する。
学校ではどうしようもないけれど…。
二人でいる時は泰明は駿也しか見てないから、だから安心するんだ。
「おはよ…ぅ」
「はよ。足は?大丈夫だったか?」
「ん」
朝の電車で泰明が乗り込んでくるとすぐに声をかけてきて、そしてドアの傍に立つ駿也を守るように駿也の後ろに立つ。。
まだいくらか痛みはあって湿布はしているけれど足は大分よくなっていた。
「駿也」
呼ばれて駿也は後ろを振り返った。
「まだちゃんと治ったわけじゃないんだから気をつけるように。移動教室とか、体育の時とか。俺がいつでもついていられるならいいんだが…」
「そんな、いいよ…。ちゃんと…気をつける…」
「ああ。……でも心配だ…」
駿也の声は照れくさくてどうしても小さくなってしまう。
こんなに泰明は駿也の事を気にかけてくれるんだ。
電車の中は秀邦の生徒が多い。
ちらちらと視線も多く感じる。
きっと駿也なんかが、生徒会の役員をしている泰明といるからだ。
「ちっ」
泰明が舌打ちしていた。
「泰明…?」
どうかしたのか、と思ってまた泰明を見上げると泰明は駿也をじっと見ていた。
「視線がウザイ」
「………ごめん…」
「は?なんで駿也が謝る?今はお前が謝る所はひとつもないだろ」
「だって…俺、なんか、といるから…」
つっと駿也は泰明から視線を外して顔を俯けた。
「バァカ。そうじゃない。……う~~ん……」
そうじゃない?
駿也は顔を上げた。
「そうじゃない、が……」
そこで泰明が言葉を止めた。
「…ま、いい。とにかく今のは駿也が謝る必要はない。駿也といるのは俺がそうしたいからしているんだ」
きっぱりと泰明が言い切ってくれた。
「だから駿也は謝らなくていい。いいな?」
そう言って泰明が手の甲で駿也の頬を撫でた。
「…ん」
駿也がじゃなくて、泰明がそうしたいから一緒にいてくれている、んだ…。
前にも同じような事は言われたけれど、そんな風に言ってもらえるのが嬉しい。
思わず駿也ははにかんでしまった。
だけど、電車を降りて学校に向って泰明と歩いていたら前を七海さんが歩いていた。
どうしよう…。
泰明は七海さんに声かけるだろうか…?
思わず駿也は隣の泰明の腕に手を伸ばして袖を掴んだ。
「ん?どうした?足、痛いか?ちょっと歩くの早かったか?」
「あ……ちょっと、だけ…」
すぐに泰明が足を止めて駿也の顔を覗きこんだ。
本当は痛くもないし歩くのが早いわけでもなかったんだけど、七海さんの所に行って欲しくなくて駿也は思わずそう言っていた。
「抱いてやるか?」
「い、いいよっ。大丈夫」
ちらっと七海さんを見るとそのまま先を歩いていって立ち止まった駿也達から離れていたのにほっとしてしまう。
「ゆっくりな」
泰明が声をかけてくれるのが申し訳なくなった。
「…うん」
でもこの手を離したくなくて駿也は泰明の腕を掴んだまま頷いた。
そのまま泰明がゆっくり歩いてくれる。
「泰明…」
「ん?」
「七海さんって…綺麗…だよ、ね」
「ああ?そうかぁ?ん~~~…顔だけならそうかもな。眼鏡かけてるしあんま目立たないが。んでもなぁ…」
泰明が七海さんをどう思っているのかすごく気になって思わず何気ないふりして言ってみた。
「あれが綺麗…う~ん…おとなしそうとか…ありえない…。静かにしてるふりしてるけど、実は違うからな。別人。したたか?二重人格?毒舌、乱暴モノ…乱暴ってのとはちょっと違うが、そんな感じだぞ?」
「え…?そう、なの…?」
「ああ」
したたか?毒舌?乱暴?
とてもじゃないけど駿也の目にはそんな風にはどうしたって見えないけど。
髪も長めで綺麗でおしとやかな感じしかしないのに。
…違うの?
思わずじっと泰明を見あげた。
テーマ : 自作BL小説
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