45 駿也(SYUNYA) 「駿也…」
授業が終わると泰明が来たけれど七海さんが一緒だった。
「生徒会の集まりがあるんだ。そんなに時間かからないからちょっと待っててもらっていいか?」
「…うん」
駿也がこくりと頷くけど、どことなく泰明の態度がおかしい。
なんかよそよそしい…?
どうかした、かな…?
「六平、三浦くん達と一緒にいてもらったら?」
「ああ、そうだな」
七海さんは駿也の顔は見ないで、泰明の腕に手をかけ、くすっと笑いを浮かべながら泰明に言った。
それを見て駿也は思わず俯いてしまう。
これじゃまるで自分の方が邪魔ものみたいだ。
「五十嵐、また明日な?」
「え、…ああ、うん」
八月朔日が駿也に声をかけ、泰明と七海さんに小さく頭を下げて教室を出て行った。
きっと部活だろう。
その八月朔日の後姿を泰明も七海さんもじっと視線で追っていた。
「?」
どうかしたのだろうか…?
「泰明…?」
「え、あ、…いや。じゃあ三浦くんのクラスまで送っていく。柏木も一緒だろうし安心だ。七海は先に生徒会室行ってて」
「分かった」
七海さんは一度も駿也の顔を見ないで泰明にだけじゃあ、と挨拶して行ってしまう。
別に駿也は七海さんと話したいわけでもないけれど。
泰明に触ったりされるのは嫌だな、とちょっと思ってしまう。
思わず駿也は七海さんが触れていた泰明の袖を引っ張った。
「うん?何?」
……なんでもない。
駿也は俯いて首を小さく横に振った。
「別に一人でだって待ってるのに…」
「いや、まだ一人は危ない。柏木は事情も知っているから任せられる。それに何より三浦くんといれば牽制になるだろうからな」
泰明が駿也の為、と色々考えてくれている。
それは嬉しい、んだけど…。
なんか泰明の態度がちょっとおかしい。
なにが、どこが、とは分からないけれど。
でもそれを聞く事も出来ないのだ。
「じゃあ、柏木、三浦くん、よろしく」
まるで子供と保護者のように泰明は駿也を三浦くんと柏木のクラスに置き、そう言って生徒会室に行ってしまう。
もう三浦くん達のクラスに残っている人はまばらだった。
「…ごめんね…」
「ううん!危ないから!和臣も多分大丈夫だろうけど、まだ気をつけてたた方がいいって言ってたし!誰がそんな危ない事すんだろうね!」
三浦くんが憤慨したように言うと柏木が苦笑している。
そういえば泰明が柏木は事情を知ってるから、と言っていた。
駿也自身も誰が、とかはよく分かっていないのだけれど、柏木は知っているのだろうか?
「座ったら?」
三浦くんが自分の隣の席の椅子に駿也を勧めたので駿也は頷いて座った。
「足は?大丈夫?」
「うん…走ったりはまだだけど、ゆっくり歩く分には」
心配そうな顔。さっきは怒ってる顔。
素直で、って泰明が言ってたのを思い出す。
「…どう、したら…三浦くんみたいに…素直、になれる…かな…?」
「へ?」
駿也が小さく聞いてみたら三浦くんは大きな目をさらに大きくさせてきょとんとし、柏木はいきなりふきだしてお腹を押さえて笑い出した。
「素直っ!素直っ!……ありえねぇ~!」
「柏木っ!」
「?」
「五十嵐、三浦は全然素直じゃねぇよ!」
「今はそうでもないもんっ!」
「……そう、なの?」
「大変よ~~~!コイツ」
「お前が言う事じゃないだろ!?」
「散々巻き込まれたんだから俺が言ったっておかしくない。一時期なんか俺、会長にまで睨まれる始末だったんだから」
柏木がずっと笑っている。
会長に睨まれる?
「好きも素直に言えないのに素直はねぇよ」
「好きっ!?」
誰を…?
え…?
「え…?」
柏木と三浦くんが声を揃えて駿也を見た。
「…もしかして、五十嵐って全然気づいてない?」
「え……」
いつも会長と一緒にいて…。って…。
「…あ、会長…?好き?」
そういえば先週、車で朝も帰りも一緒だった。
あ…。
駿也は今まで全然自分の事ばかりにいっぱいいっぱいで考えてもなかった。
「そ、そう…だよね…」
朝だって帰りだっていつでも会長と一緒で…。
名前で呼んで特別なのは分かっていたけど…好き、なんだ。
かぁと顔を赤くすると三浦くんと柏木が駿也を見て、そして顔を合わせていた。
「そういう五十嵐くんは六平さん好きなんだろ?」
「え……と……す、き…」
こくりと小さく頷きながら駿也が言うと三浦くんまで顔を赤くしていた。
好き、なんて言葉を口にして、誰かに向かって言ったのは初めてだった。
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