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熱視線 小夜曲~セレナーデ~2

 甘いっ!
 明羅はびっくりした。
 怜のシューベルトのセレナーデに。
 こんな音も出せるのか?と今度は首を捻った。
 これだったら<愛の夢>だってとろりと弾けたはずだと思うのだが…。
 ピアニストだっていつだって同じ音を出せるはずもない。ピアノだって会場でみな違うのだから。
 そう思って納得する。

 どんな簡単な曲だって怜が弾けば情緒豊かにうっとりと聞きほれる。
 今日はロマン系らしい。
 ゆっくりとした曲が続いた。
 どうしたのか…。
 甘さが増してくように思える。
 「れ、怜さん?」
 思わず曲が終わって途切れたところで明羅は声をかけた。
 「ん?あ、ああ?」
 怜までどこかにトリップしてたらしい。はっとして怜が明羅を見てそして眉間に皺を寄せて考え込んでいた。
 「…どうかした…?」
 考え込んで動かない怜に明羅が声をかける。
 「あ、いや…」
 怜は顔を戻し、そしてピアノの蓋を閉じた。
 なんだ、もう終わりか…。
 明羅はちょっと残念に思う。
 <愛の夢>にいくのかと思ったけどまだ弾かないらしい。
 
 明羅はパソコンに向かった。
 思わず顔が赤くなってしまうような怜の演奏に明羅はどきどきしたままだった。
 あんなのコンサートでも聴いた事がない。
 わりとそういえば甘い系の選曲はしていなかったと思う。
 <愛の夢>も愛を知らないから、とか自分で言ってた位できっと自分でも満足ではないのだろう。
 明羅などそれどころか自分の演奏で今まで満足感を得た事などないが。
 難しい曲を弾けたという達成感と満足感では全然ちがう。弾けたにしたってあそこはもっとこう弾けばよかった、ここはこうだったとか考える事は山ほどでてくるのだ。
 怜はどうなのだろう?
 自分で自分の演奏に満足しているのかな?
 もし明羅が怜の音であれ位弾ければきっと満足すると思うのだが。
 あとで聞いてみようと思いながらパソコンを立ち上げた。
 頭には先ほどの甘い怜の音が残っていて明羅は頭を振った。
 
 怜の手伝いとピアノを聴くとき以外は明羅はパソコンに向かった。
 作っているのはピアノ曲で、機械で出される音は確認できても、本当はピアノで自分で弾いて出来がどうだか聴きたい所だが、怜のいる所でそれは出来なくて仕方なく機械の音だけで我慢する。
 出来上がったのは怜の誕生日の前の日の夜だった。
 最後に音を確認して、楽譜に起こしたものをプリントアウトする。
 ふふ、と思わず笑みが零れた。
 自分では満足な出来。
 でも怜がどう思うかなんて分からない。
 しょせん自己満足といわれれば仕方ないけれど。
 
 時間はまたも2時を過ぎていた。
 パソコンを落として電気を消しそっと寝室に向かった。
 怜はまだ起きていた。
 毎日怜は明羅が終わるまで起きていて、一緒に寝る。
 別にいいのに…と申し訳なく思いながらも曲ができるまで、とどうしてもパソコンから離れられなかった。

 「……怜さん、寝てていいのに…」
 「あ?別に眠くないからな。お前が来ると眠くなるけど」
 怜は持っていた本をベッド脇のチェストに置いた。
 そしてやっぱり怜さんの腕が明羅に巻きつく。
 「…困ったな。すっかり抱き枕がないと寝られない身体になってしまった」
 怜さんの言うとおり毎日明羅の身体は怜の抱き枕になっていた。
 明羅は人の温もりの横で眠った事などなかったが、それが気持ちよくて怜のなすがままになっている。
 「ごめんね、女の人じゃなくて」
 明羅が笑って言えば怜はふき出した。
 「女だったら即効で頂いているさ」
 うん、もし自分が女だったらきっと怜を離さないかもしれないと明羅は思った。
 「…女だったらよかったのに…」
 明羅はふぁぁと欠伸をしながら言った。
 そうすれば付き合って、とか言えたのに。
 怜の腕の力が強まった。
 「ぅん…苦しいよ?」
 「あ、悪い」
 ふっと緩まる。

 「ねぇ、明日怜さん誕生日でしょ?ケーキ屋さん連れてって」
 「んん?」
 「本人に頼むのおかしいけど」
 「別にいいよ」
 「やだ」
 「……ケーキはいいからどこか食べに行くか」
 明羅は黙ってしまう。きっと支払いは怜さんがするって言うだろう。だからといって家でも用意するのは怜さんで。
 「…俺、やっぱり役立たずで迷惑だ」
 怜がくつくつと明羅の耳元で笑った。
 

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