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追憶の彼方から放されたい 2

 「早速なんですけど本題に入っても…?」
 コーヒーを手に座席に座ると尾崎がすぐに口を開いた。

 おべっかとかそういうのがないのでどうやら克己の父親の力が目当ではないらしい。
 座席は隣とは通路になっていて少し離れ、小さい声で話せばざわついているので聞こえる事はないだろう。

 「さっき警察だって言いましたよね?それで、警察の中にどうやら特殊部ってのが出来るらしいんです。出来るのか出来てるのか知りませんけど。公にはしない事でしょうから。この話も噂として回って来ただけなんですけどね」
 「…特殊部」
 それは克己の力みたいな事を…?
 少しだけ興味を引かれる。

 「アメリカみたいにしたいんでしょうけど。プロファイリングなんかもまだまだなのにどうなの?って気もしますけどね」
 尾崎という男は警察官になりたくてなったのだろうか?どう見てもそうは見えないが…。
 「それで、お義母さんが言ってた事を思い出して」
 「……なんて?」
 「ん~…まぁ、ちょっと変わってた、とか…」
 尾崎が言葉を濁した。

 「別にいいですよ。薄気味悪いとか気持ち悪いとかそういう事なら面と向かって言われてるし」
 まだ幼稚園にもなっていない頃だろうか?
 初めてやったトランプの神経衰弱で克己は全部を当てた。勿論裏返してあっても見えてたので当たって当たり前だったのだが、普通の人は見えないなんて思ってもみなかった。

 お手伝いさんや母親と一緒に遊んでいたのだが、そこにいた全員が凍りついたのは今でも鮮明に覚えている。
 同じ柄を当てるのよ、と言われて見えてるのに何が楽しいのだろう、と克己は不思議だったのだが…。
 「ちょっと酔っ払った時だったんだよ。普段はキミの事なんか話したりしないしね」
 「…でしょうね」

 どうせ自分が生んだのに自分の子じゃないとか言ったんだろう。
 まだ出て行く前にも酒に酔ってそう言われた事もあった。
 「…それで?本当なの?今も?」
 「そうですけど?」
 母親から聞いているのでは否定しても仕方ない。克己はどうでもよさそうに頷いた。

 「へぇ…本当なんだ…。裏返したカードとかが全部見える?」
 神経衰弱の話も聞いたらしい。
 「見えますね」
 「あとは?」
 「あと…はさぁ?たまに古い物に触れたときとか何か感じる時もあるけど」

 「何かって?」
 「色々…嫌な気みたいな事…かな…。でもそんなのは稀ですけど」
 「へぇ…嫌な気?」
 「俺にもなんとなくしか分かりませんけど」
 「ふぅん…」
 尾崎がコーヒーに口をつけた。

 「それで、その特殊部ってのが本当だったらキミの事を紹介してもいい?」
 「…何故?」
 「さっき言ったでしょう?俺は刑事になりたかったの。もし紹介したら融通利かせてもらえないかなぁと思ったんだけど」
 結局は自分の為か…。でもそれならそれで目的がはっきりしてるとは言える。それに克己の父親に頼んで口添えとか言わなかった所はいいか…。
 もっとも別れた妻の再婚相手の息子の口添えなんてする事はないだろうと思うけど。

 「…他にもいるんですか?」
 「ん?ああ、力持ってる人?俺は知らないよ?言ったでしょう?噂で聞いたって」
 もし自分の他にもこんな力を持つような人にいたら会ってみたいと興味は出る。
 相手が警察というのならば多少は信用してもいいのだろうか?ただ果たしてこの相手が本当に警察官かどうかは謎だが。

 「…もしかして俺が警察って疑ってる?でも本当の事だよ?嘘は言ってない」
 あやふやな言い方をしている分信憑性がかえって高いと思う。もし本当に何かに利用したいのならばもっと上手い事を言えるはずだ。
 胡散臭い、いかにも裏がありますというような男の表情だが、自分の為というのならばかえって信用できる。

 「もし話しが本当ならね。別にいいんじゃない?」
 それで自分以外にも変わった力を持つ人がいるのならば話をしてみたいと興味があるのは本当だ。
 「……冷めた子だね」
 冷たい眼鏡の男が面白そうに呟いた。

 「携帯聞いてもいいかな?もし話が本当だったら連絡する。確実性のない話で申し訳ないけど」
 「別に構いませんよ」
 用がなければ連絡はしないという事だ。本当にはっきりしたヤツだなと思いながら克己は素直に携帯の番号を教えた。
 
 
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